最新記事

感染症対策

日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議

Japan’s Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway

2020年5月15日(金)16時50分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

だがこの2週間で新たな感染者数は明らかに減少傾向に転じており、医療現場の負担も緩和されている。1日あたりの感染者数は4月12日の743人から、5月14日には57人に減り、100人の大台を割り込んだ。それでも世論は納得していない。共同通信が10日に実施した調査では、回答者の57.5%が新型コロナウイルスに関する政府の対応を「評価しない」と回答。「評価する」と回答した人は、わずか34.1%だった。

事態を複雑にしているのは、日本のPCR検査実施数が国際水準を大きく下回り、実際にどれくらい感染が拡大しているのかが分かりにくいことだ。5月14日までに全国で実施された検査は23万3000件をわずかに上回る程度で、アメリカの2.2%だ。

これには意図的な部分もある。感染が判明した人は感染症指定病院で隔離して治療を行うことになるが、軽症者や無症状の感染者が大勢押し寄せると現場が対応しきれなくなる。そこで政府は、強いだるさや息苦しさがある場合、あるいは37.5度以上の熱が4日間続く場合のみ受診相談をするという目安を示した。最近までこれが徹底されてきたために、苦しんでいるのに検査さえ受けられない人が続出した。ある日本語が堪能ではない外国人女性が、検査を受けさせてもらえるまで何度も病院をたらい回しにされた体験談が外国のメディアによって報じられると、国際社会は震え上がった。

検査結果は手書きでファックス

当局者たちは、日本では幅広い検査を実施するだけのインフラが整っていなかったことも理由に挙げる。検査態勢の拡充を強く求めていた日本医師会の横倉義武会長は、「PCR検査のための装置や試薬、医療従事者の防護具が十分になかった」と指摘する。

その後、複数の民間施設が検査に参入したことから、政府は検査基準を緩和し、高齢者や重症者はすぐに検査を受けられるようになった。それでも専門家は、本当の感染拡大状況は不明なままだと指摘する。東京都のある医療関係者は、実際には都民の6%前後が感染している可能性が高いと言っていた。

もうひとつの問題は、データの収集方法だ。新たな感染者数に関する報告は、医師が手書きで記入し、地元の保健当局にファックスで送信。地元当局がそのデータをまとめて中央政府に送る仕組みになっている。医師が詳しい情報を記入するために貴重な時間を無駄にしているという批判の声が上がると、日本のIT政策担当大臣は「対処していく」とだけ述べた。データの取り方もばらばらで、日曜日と月曜日は新たな感染者数が少なくなり、そこから増えて金曜日か土曜日に最も多くなるという流れだ。

外出制限も多くの国に比べてずっと緩い。国家緊急事態宣言が発令されても、政府は国民に自宅待機を強制することはできず、企業や店舗に閉鎖命令を出すことはできない。第2次世界大戦後に(アメリカが草案を作成して)制定された憲法で、国家権力が制限されているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国コスコの船舶がホルムズ海峡通過、2度目の試み 

ビジネス

金融政策「良い位置」、イラン情勢の影響見極めへ様子

ビジネス

米FRB議長、新卒者の長期的な雇用見通し楽観視 A

ワールド

エジプト大統領、トランプ氏にイラン紛争停止訴え 原
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    イタリアに安定をもたらしたメローニが国民投票で敗…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中