コラム

筋金入りの反トランプ派だった男がトランプ陣営の副大統領候補に...その深層は?

2024年08月21日(水)18時16分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ドナルド・トランプ, バンス, J.D.バンス, 米大統領選, 共和党

©2024 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプをたびたび罵倒してきたJ.D.バンスが副大統領候補に選ばれた背景にある「架け橋」戦略とは?ハーバード大卒芸人パックンが風刺画からアメリカの今を読み解きます>

風刺画が描くDonald Trump is America's Hitler!(トランプはアメリカのヒトラーだ!)以外にも、トランプを否定する言葉はある。トランプはアメリカで最も嫌われている悪党で、最もうざいセレブだ。大統領にふさわしくない。人を搾取する完全な詐欺師だ。有毒だ。不埒だ。ドアホだ。昔から彼のことは嫌いだから、僕はNever Trumper(永遠にアンチトランプ)だ!

こんな罵声をたびたび発してきたのが、貧困家庭育ち、元海兵隊、イラクに従軍し、エール大学卒で弁護士資格を持つJ.D.バンスだ。


しかし数年たつと、バンスは自身の上院議員選への立候補に備え、トランプに頭を下げに行った。すみません、メディアにだまされ、トランプさんのことを勘違いしていました!と、平謝りしてトランプの応援を乞うたそうだ。バンスの「永遠」は案外短い期間だったね。

7月15日、バンス上院議員はトランプに副大統領候補に抜擢された。バンスは共和党の全国大会で受諾演説を行ったとき、さすがに風刺画のようにヒトラー式敬礼でHeil Trump!(ハイル・トランプ!)とは言わなかった。

だが、「われわれはトランプ大統領を必要としている」「トランプ大統領はアメリカの最後の、最高の希望となる」などと、まさに救世主かのように熱くたたえた。大嫌いだったのに、今はバンスほどトランプが大好きな人はトランプ本人ぐらいだろう。

一体誰なら反トランプ派の心をつかめる?

もちろん、改心した人はほかにもいる。トランプについて「道徳が全くない」「詐欺師だ」「大統領に欲しくない特徴の塊だ」「地獄に落ちろ」などと昔、発信していた共和党の大物政治家たちが次々とネバートランプからオールウェイズトランプに変わっている。

その中にはマルコ・ルビオ上院議員やニッキー・ヘイリー元国連大使など、バンスと並んで「副大統領候補」と目されていた人たちもいる。

なぜトランプは自分のことをぼろくそに言っていた人物を副大統領候補にしたのか? トランプの側近によると、それは選挙戦略だ。トランプは暗殺未遂を乗り越えた直後に共和党の全国大会を成功させた。普通なら、こんな候補の支持率は大きく跳ね上がりそうなものだ。

だが、トランプの場合それがびくとも動かない。本来あるはずのプラス効果が表れない。国民の過半数は反トランプ感情が固いようだ。トランプは岩盤支持層以外の有権者への架け橋として、元ネバートランプ派の人を起用したかったのだという。

しかし、バンスが副大統領候補になってもトランプの支持率は上がっていない。バンスでも無理なら、一体誰が反トランプ派の心をつかめるのだろう? それは......カマラ・ハリスぐらいではないかな。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story