最新記事

社会実験

ベーシックインカムはどうだったのか? フィンランド政府が最終報告書を公表

2020年5月11日(月)17時00分
松岡由希子

新ヘルシンキ中央図書館 Sasha_Suzi-iStock

<フィンランド政府は、2017年から2018年にかけてベーシックインカムの社会実験を行い、このほど一連の研究成果をまとめた最終報告書を公表した......>

ベーシックインカム(UBI:基礎所得保障)とは、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要となる金銭を定期的に支給するという政策である。

フィンランド政府は、2017年から2018年にかけてベーシックインカムの社会実験を行い、2020年5月6日、一連の研究成果をまとめた最終報告書を公表した。

失業手当受給者を対照群に心身の健康、幸福度などを分析

この実験では、2016年11月時点での失業手当受給者のうち、無作為に抽出した25歳から58歳までの2000名を対象に、2017年1月から2018年12月までの2年間にわたって毎月560ユーロ(約6万5520円)を支給した。なお、この期間中、就職や起業で収入を得ても、この支給額が減らされることはない。このため、低収入の仕事でも仕事に就くことができ、失業率が低くなると考えられていた。

研究チームは、同期間の失業手当受給者を対照群として、ベーシックインカムが受給者の雇用や収入、社会保障、心身の健康、幸福度、生活への満足度などに、どのような影響をもたらしたかを分析した。

実験期間終了直後に実施したアンケート調査によると、ベーシックインカムの受給者のほうが、生活への満足度が高く、精神的なストレスを抱えている割合が少なかった。また、他者や社会組織への信頼度がより高く、自分の将来にもより高い自信を示した。

ベーシックインカムの受給者81名を対象にインタビュー調査も実施した。これによると、その多くが「ベーシックインカムが自律性を高めた」と回答。ベーシックインカムによって、経済状況を自らコントロールしやすくなり、経済的に守られていると感じるようになったとみられる。ベーシックインカムが、ボランティア活動など、新たな社会参加を促すケースもあった。

ベーシックインカムが雇用にもたらす影響は小さかった

ベーシックインカムが雇用にもたらす影響は限定的だった。2017年11月から2018年10月までの平均就業日数はベーシックインカムの受給者のほうがわずかに多く78日であったのに対し、失業手当受給者では73日であった。フィンランド経済研究所(VATT)の主任研究員カーリ・ハマライネン氏は「ベーシックインカムが雇用にもたらす影響は小さかった」と述べている。

ただし、フィンランドでは、実験期間中の2018年1月に失業手当の給付要件を厳格化する「アクティベーション・モデル」が導入されたため、今回の社会実験では、ベーシックインカムが雇用にもたらした影響のみを検証することは難しい。

フィンランド国民は、ベーシックインカムの導入に前向きな姿勢を示している。国民アンケートでは、フィンランドでのベーシックインカムの導入について、回答者の46%が「賛成」もしくは「部分的に賛成」と回答している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BRICS外相会合、トランプ関税の対応協議 共同声

ワールド

ウクライナ、米と可能な限り早期の鉱物協定締結望む=

ワールド

英、EUと関係再構築へ 価値観共有を強調=草案文書

ビジネス

ECB、中立金利以下への利下げも 関税で物価下押し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中