最新記事

医療

新型コロナウイルスが深めた絆 双子の救命医それぞれの最前線

2020年5月5日(火)12時00分

マイケルさんにとって特に大きな打撃だったのは、気管挿管をした体重過多の女性患者だ。彼女の酸素飽和度が危険なレベルまで低下していた。気管挿管はそうした患者の容態を安定させるための処置だが、この患者の症状は悪化し続け、1時間もしないうちに亡くなった。

「本当に辛かった」と、マイケルさんは言う。「気管挿管をしたのは私だ。そのときは、命を救っているという実感があったのに」

ある深夜、勤務を終えて午前2時ごろ自宅まで歩いて帰る途中、ふだんなら静まりかえったブルックリン地区で、2人の男がマイケルさんに飛びかかり、地面に押し倒すと、金目のものを奪おうとポケットを探った。

マイケルさんは「私は医者だ、コロナウイルスに感染するぞ」と叫んだ。

今となっては笑い話だ。噓ではあったが、効果はあった。男たちは慌てて離れた。マイケルさんは無傷で逃れた。

マサチューセッツ州の現場

ニューヨークと同様に大きなダメージを受けているマサチューセッツ州。検査助手として働くトム・ダーゾさんは、緊急治療室のなかで働くスタッフとして最初に患者を目にすることも多い。

トムさんによれば、彼が働く病院では、新型コロナウイルス患者に対応するため、集中治療室の収容人数を3倍に拡大した。出勤すると、多ければ3人の患者がすでに人工呼吸器につながれているのを目にすることもあるという。容態が悪化していた高齢の女性は、「気管挿管はしないでくれ」と以前にお願いしたことは無視してほしいと頼んでいた。

「死を恐がっていた」と、トムさんは言う。「彼女の顔には恐怖の色が浮かんでいた」

この女性患者が助かったかどうか、彼は知らない。

デニスさんは兄2人の話を聞き、自分もまもなく同じような試練に直面するかもしれないと考えている。

双子の兄であるデニスさんが働くマイアミのジャクソン記念病院では当初、新型コロナウイルスの患者は担当医が治療をしていた。不足する防護具を節約するために研修医に関わらせることはしなかった。だが、今や患者が増え、状況は変わったという。

不安は高まっている。デニスさんによれば、同僚の研修医も含め数人の医療従事者が新型コロナウイルス陽性の診断を受けたという。医師たちは常に防護具を着用している。

「マスクをしていて誰が誰だか分からないから、同僚なのに名乗り合っている」と、デニスさんは言う。

同僚のなかには、患者に気管挿管する際、口のところだけ穴をあけたゴミ袋を被せれば感染拡大防止に効果があるのではないか、と考えている者もいるという。


【関連記事】
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・東京都、新型コロナウイルス新規感染87人確認 都内合計4655人に(インフォグラフィック)
・韓国のコロナ対策を称える日本に欠ける視点
・トランプ「米国の新型コロナウイルス死者最大10万人、ワクチンは年内にできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中