最新記事

テロリズム

カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男の「インセル」思想とは

What Is the 'Incel' Movement? Canadian Incel Teen Charged With Terrorism

2020年5月21日(木)15時20分
ジェフリー・マーティン

特定の宗教や政治思想に駆られた暴力だけがテロではない  BrianAJackson/iStock

<女性が自分と性交したがらないために「不本意な禁欲」を強いられている。自分が不幸なのは、女にモテる男や、モテる男になびく女のせいだという身勝手な考えに基づく犯罪が増加している>

カナダで2月に起きた女性刺殺事件に関連して、現地の警察は5月19日、10代の少年を殺人ではなくテロ容疑で起訴した。少年は、女性蔑視主義者「インセル」の運動の影響で事件を起こした可能性があると判明したからだ。インセルとは、「不本意な禁欲主義者(involuntary celibate)」の略で、恋人がいなくて禁欲を強いられているのは女性のせいだ、と考えるオンライングループの男性を指すことが多い。

容疑者(未成年のため身元非公表)は2020年2月、トロントにある風俗店で複数の女性を刃物で刺し、1人を殺害、2人に怪我をさせたとして、既に第一級殺人と殺人未遂の罪で訴追されていた。その後、容疑者がインセル運動の考え方に影響を受けて犯行に及んだ可能性を示す証拠が出たことで、当局は容疑を「テロ攻撃」に変更した。カナダで個人がインセル運動に関連する罪で訴追されるのは、今回が初めてのことだ。

カナダ騎馬警察は19日に発表した声明の中で、「この事件の容疑者は、インセルとして知られる、特定の思想に駆られた暴力的過激主義に感化されていた」と説明。「テロリズムは特定のグループや宗教、思想に限定される訳ではなく、さまざまな形を取るものだ」と述べた。

人間以下の「チャド」と「ステイシー」

インセル運動は、女性に拒絶されて「不本意な禁欲」を強いられていると考える多くの男性を引きつけてきた。そして徐々に、自分たちよりも異性とうまく付き合っている人々を憎悪する考え方を支持するようになっている。

彼らは、性的魅力があって女性とのセックスに不自由しない男性を「チャド」、チャドの魅力になびく女性が「ステイシー」と呼んで軽蔑している。チャドとステイシーという2つのステレオタイプについて否定的なコメントをネットに投稿し、女性たちは彼らよりも自分たちに魅力を感じるべきだと主張している。

女性を意味するインセル用語には「フィーモイド」もある。女性はセックスと権力への欲だけに駆られる、人間以下の生き物だという意味を込めた言葉だ。

インセル運動の思想は通常、オンラインフォーラムを通じて拡散される。たとえば人気ウェブサイトのレディットの場合、ユーザーが独自に「サブレディット(掲示板)」を作成して、その中でほぼあらゆる話題について自由に語り合うことができる。最近では、インセルは極右勢力「オルタナ右翼」と同一視されるようになっている。

<参考記事>介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕
<参考記事>ニューヨーク当局が新型コロナ時代のセックス指針を公開「最も安全な相手は自分自身」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ダウ、一時初の4万ドル突破 好決算や利下げ観測で

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中