最新記事

児童虐待

外出自粛の長期化で懸念される児童虐待──保育の拡充は子どもの命を救う

2020年5月13日(水)14時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

家庭という閉ざされた空間で四六時中親子が接していれば育児ストレスは増加する tomazl/iStock.

<都市部での児童虐待の増加が指摘されているが、実際には保育所の入所率の方が相関関係が強い>

コロナ感染防止のための「巣ごもり」生活が長引くなか、児童虐待の増加が懸念されている。学校が休校になっているため教員が各家庭を回って課題を届けているが、そこには異変が起きていないかを確認する狙いもあるようだ。

児童虐待防止への関心は年々高まっており、4月から施行されている改正児童虐待防止法では、親の体罰禁止が定められている(第14条1項)。「しつけ」と称して子どもを叩くことは、もう許されなくなった。

人々の意識の高まりは、相談件数の激増にも表れている。児童相談所が対応した児童虐待相談件数は1998年度では6932件だったが、2018年度では15万9838件に膨れ上がっている。通報の網の目が細かくなっているためで、悪いことではない。

あまり取り上げられないが、地域差もある。都道府県別の相談件数を見ると、最も多いのは大阪の2万694件で、2位は神奈川、3位は東京となっている(2018年度)。人口サイズを考慮して、各県の15歳未満人口1000人あたりの数に換算し、高い順に並べると<表1>のようになる。

data200513-chart01.png

全国値は10.4件だが、都道府県別にみると大阪の19.6件から鳥取の1.1件まで大きな開きがある。上位3位は大阪、埼玉、神奈川で、おおよそ都市部の地域で虐待相談件数が多いように思われる。内田良氏が「虐待は都市で起こる」(『教育社会学研究』76集、2005年)という論文を書かれているが、このテーゼが当てはまるようだ。

都市部では虐待が通報されやすい、ということかもしれない。田舎の顔見知りの間では許容される行いも、匿名の第三者の目に触れたら通報されやすい。

だが都市には虐待を誘発する環境条件があるのも確かで、よく言われるのは、人間関係が希薄で親子が孤立しやすいことだ。保育所不足もあり、乳幼児の家庭内保育が多く、家の中で親子が四六時中接している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中