最新記事

環境

経済成長を諦めなくても温暖化対策は進められる

Growth Can Be Green

2020年4月25日(土)17時45分
アンドリュー・マカフィー(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院首席研究員)

一方、先進諸国は有効な環境対策を後戻りさせてはいけない。米トランプ政権は湿地保護やメタンガス排出規制を後退させつつあるが、この方向性は間違っている。

地球温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスは、長期にわたり人間や地球に打撃を与える最大の問題だ。それらの排出削減に欠かせないのは政治的決断とテクノロジーの革新だが、既成のやり方を大転換する必要はない。

役立つのは大気汚染を減らすのに成功した方法、つまり温室効果ガスの排出に厳しく課金する方法だ。企業に「炭素税」を課し、税収をその「配当」として国民に還元して価格上昇に対処させるという提言が米政府になされているが、実に素晴らしい発想だ。18年にノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・ノードハウスは炭素税の提唱者。今こそ実践すべきアイデアだろう。

野生種保護で個体数回復へ

最後に種の喪失について。それは地球温暖化で予想される悲しい結果の1つだ。温暖化で生態系が乱れれば生息地が失われ、絶滅する動物が増えるかもしれない。しかしこれにも「脱成長」では対処できない。むしろ必要なのは一層の成長だ。

国も国民も、豊かになってこそ地球や野生生物について敏感になる。その意識の変化は過去50年でよく分かる。82年の国際捕鯨委員会(IWC)では多くの国が商業捕鯨の禁止に賛同した。結果、今ではクジラの個体数が回復しつつある。

陸地や海洋を守る動きも目立つ。50年前に地球の陸地で自然公園や保護区に充てられていたのは2.4%以下で、海洋に至っては0.04%だった。しかし18年にはそれぞれ13.4%、7.3%に増えた。

中国は絶滅の危機にある動物を使った製品の世界最大市場だが、ここにもEKCのパターンが見て取れる。中国は豊かになるにつれて希少動物の搾取を減らしている。サイやトラに由来する製品の売買は禁じられ、象牙市場も17年末に閉鎖された。

絶滅のペースも鈍化しているようだ。この50年で絶滅が報告された海洋生物はいない。絶滅の阻止に成功したと宣言するのは時期尚早だが、道筋は見えたと言えそうだ。地球上の生命を守るために必要なのは、環境汚染を減らし、野生種を保護して個体数を回復させることだ。

「脱成長」は解ではない。それは人間の本性に反しているし、無益でしかない。環境保護が無駄だと言うつもりはない。私たちはアースデイ前後に生まれた環境保護の動きに心から感謝すべきだ。人々はその日から街に繰り出し、企業や政治家、政府当局者に抗議し、地球を守れと主張してきた。効果はあった。

しかし、彼らの当初の考え方は支持できない。母なる地球と未来の世代を守るためには「脱成長」を選ぶしかないという主張は誤りだった。ほんの少し知恵を絞れば、成長を続けつつ汚染を減らし、種を保護することができるのだ。さあ、真っすぐ前を向いて進もう。人類が繁栄し、いつまでも生命が豊かに息づく地球を目指して。

<本誌2020年4月7日号掲載>

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁ら、緩やかな利下げに前向き 「トランプ関

ビジネス

中国、保険会社に株式投資拡大を指示へ 株価支援策

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 7
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 8
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中