経済成長を諦めなくても温暖化対策は進められる
Growth Can Be Green
一方、先進諸国は有効な環境対策を後戻りさせてはいけない。米トランプ政権は湿地保護やメタンガス排出規制を後退させつつあるが、この方向性は間違っている。
地球温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスは、長期にわたり人間や地球に打撃を与える最大の問題だ。それらの排出削減に欠かせないのは政治的決断とテクノロジーの革新だが、既成のやり方を大転換する必要はない。
役立つのは大気汚染を減らすのに成功した方法、つまり温室効果ガスの排出に厳しく課金する方法だ。企業に「炭素税」を課し、税収をその「配当」として国民に還元して価格上昇に対処させるという提言が米政府になされているが、実に素晴らしい発想だ。18年にノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・ノードハウスは炭素税の提唱者。今こそ実践すべきアイデアだろう。
野生種保護で個体数回復へ
最後に種の喪失について。それは地球温暖化で予想される悲しい結果の1つだ。温暖化で生態系が乱れれば生息地が失われ、絶滅する動物が増えるかもしれない。しかしこれにも「脱成長」では対処できない。むしろ必要なのは一層の成長だ。
国も国民も、豊かになってこそ地球や野生生物について敏感になる。その意識の変化は過去50年でよく分かる。82年の国際捕鯨委員会(IWC)では多くの国が商業捕鯨の禁止に賛同した。結果、今ではクジラの個体数が回復しつつある。
陸地や海洋を守る動きも目立つ。50年前に地球の陸地で自然公園や保護区に充てられていたのは2.4%以下で、海洋に至っては0.04%だった。しかし18年にはそれぞれ13.4%、7.3%に増えた。
中国は絶滅の危機にある動物を使った製品の世界最大市場だが、ここにもEKCのパターンが見て取れる。中国は豊かになるにつれて希少動物の搾取を減らしている。サイやトラに由来する製品の売買は禁じられ、象牙市場も17年末に閉鎖された。
絶滅のペースも鈍化しているようだ。この50年で絶滅が報告された海洋生物はいない。絶滅の阻止に成功したと宣言するのは時期尚早だが、道筋は見えたと言えそうだ。地球上の生命を守るために必要なのは、環境汚染を減らし、野生種を保護して個体数を回復させることだ。
「脱成長」は解ではない。それは人間の本性に反しているし、無益でしかない。環境保護が無駄だと言うつもりはない。私たちはアースデイ前後に生まれた環境保護の動きに心から感謝すべきだ。人々はその日から街に繰り出し、企業や政治家、政府当局者に抗議し、地球を守れと主張してきた。効果はあった。
しかし、彼らの当初の考え方は支持できない。母なる地球と未来の世代を守るためには「脱成長」を選ぶしかないという主張は誤りだった。ほんの少し知恵を絞れば、成長を続けつつ汚染を減らし、種を保護することができるのだ。さあ、真っすぐ前を向いて進もう。人類が繁栄し、いつまでも生命が豊かに息づく地球を目指して。
<本誌2020年4月7日号掲載>
2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。