最新記事

厚生労働省

新型コロナウイルス患者急増で病床削減計画見直しか 日本の医療政策の矛盾露わに

2020年4月16日(木)14時46分

新型コロナウィルス感染者の病床不足が問題となっている中で、厚生労働省がこれまで5年にわたって進めてきた全国の病床削減計画を見直す可能性を視野に入れていることがわかった。写真は横浜で2月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

新型コロナウィルス感染者の病床不足が問題となっている中で、厚生労働省がこれまで5年にわたって進めてきた全国の病床削減計画を見直す可能性を視野に入れていることがわかった。政府は昨年秋に、13万床の病床削減を目安として掲げ、病院名のリストも作成。その対象となっていた公立病院はコロナ患者の受け入れを求められており、政策の矛盾を指摘する声が出ている。

13万床削減要請の衝撃

昨年10月の政府の経済財政諮問会議。「来年9月までに、まず公的・公立病院の見直しを出していただく」ーー加藤勝信厚生労働相は全国の自治体を対象に、余剰病床の削減計画を提出するよう要請。民間議員からも「官民合わせて過剰となる約13万床の病床の削減が必要だ」とする提言が行われた。

これらは昨年6月に閣議決定された経済財政の基本方針である「骨太方針」に「地域医療構想」に沿った医療提供体制の効率化と題して盛り込まれたものだ。

同9月には、厚生労働省が公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の4分の1を上回る424の病院について再編や統合が必要だとして個別の病院名を公表。病床が逼迫している東京都でさえ、国家公務員共済連九段坂、東京都台東区立台東、東京都済生会中央、東京都済生会向島などの各病院が対象として挙げられた。

名指しされた病院のある地域では、地域医療を支えてきた病院の閉鎖や再編に対し住民による反対運動がおこった。それでも政府が病床削減を進めてきたのは、2014年から始まった「地域医療構想」があるからだ。「地域医療構想」は2025年に必要となる病床数を4つの医療機能ごとに推計し、病床の機能分化と連携をすすめ、効率的な医療提供体制を実現する取り組みとされる。

団塊世代が75歳の後期高齢者となる2022年からは医療費が一気に増大し、日本の医療費の加速的な増加が財政を圧迫する姿が見通せる。

医療費の抑制を図り、持続可能な体制を作るため、過去5年程度の間、政府は「地域医療構想」の提出を各都道府県に促してきたが、なかなか進捗しなかった。このため、諮問会議は公立病院を中心に昨年秋から3年間程度を集中期間として、病床再編を進めることを打ち出した。2025年時点で必要なベッド数推計値と現状の病床数の差が13万床だという理屈だ。

日本医療労働組合連合会(医労連)の森田進書記長は、コロナ対応で病床が不足する事態を起こした一因は、国の政策にあると強く批判している。同氏によると、ここ20年間で感染病床は大幅に削減され、1998年に9060床あった感染病床は現在、1869床まで減少している。同氏はロイターに、「本来なら、感染症病床というのは国がきちんと整備しておくべきだと我々は言い続けてきた。ベッドが減少したところでこういう事態になった」と語る。

「21世紀は感染症との闘い」と言われるように、MERS、SARS、新型インフルなど様々な感染症が突然発生する。感染症病室は、普段は稼働率が低くてもいざという場合に運用できるようなシステムは日ごろから必要、というのが医労連の立場だ。「国は医療費抑制、効率性ばかりを追求している」(森田しのぶ委員長)と指摘する。


【関連記事】
・日本・台湾・香港の「コロナ成績表」──感染爆発が起きていないのはなぜ?
・アメリカが期待した「クロロキン」、ブラジルで被験者死亡で臨床試験中止
・「社会的距離の確保、2022年まで必要な可能性」米ハーバード大学が指摘
・気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中