最新記事

教育

日本の教師の仕事への「自信」が特異的に低い理由

2020年4月15日(水)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

「TALIS 2018」によると、日本の中学校教員の週の平均勤務時間は56.0時間で、うち授業は18.0時間、授業準備は8.5時間でしかない。残りの29.5時間(52.7%)はそれ以外の業務ということになる。会議、事務作業、部活指導などだ。専門性を発揮できる授業の割合は、職務全体の半分にも満たない。

このような国が特異であるのは、<図2>からも分かる。目ぼしい7カ国の勤務時間構造の比較で、「瑞」はスウェーデン、「伯」はブラジルを指す。

data200415-chart02.png

トータルの勤務時間は日本が最も長く、その要因は授業以外の雑務の時間が長いことだ。緑色の「その他」が幅を利かせている。授業と授業準備だけで比べたら、他国とほとんど変わらない。南米のブラジルでは、教員の仕事の95%は授業(準備)となっている。

こういう状況では、自分のパフォーマンスに自信を抱くのは難しい。教えることの専門家であっても、保護者会でモンスターペアレンツに突き上げられたり、経験もない競技の部活指導を任されたりしたら、肯定的な感情は持てない。日本の教員の職務能力への満足感は低いのだが、他国の教員は職務を「授業」と捉えているのに対し、日本の教員はその他の雑務も含めてイメージしているからかもしれない。

教員を「何でも屋」にするのは、彼らの自己肯定感を破壊してしまう。一斉休校で世の中が混乱しているが、学校に教育以外の雑多な機能を負わせている日本社会の「学校依存」の矛盾が露呈した結果ともいえる。

学校のスリム化を図り、社会全体で子どもを育てる環境を構築すべきだ。一斉休校による学校の機能停止が、それを促す契機になればいい。教員の専門職性が明瞭になった時、教員の自信・自尊感情も高まることになる。

<資料:OECD「TALIS 2018 Results (Volume II) : Teachers and School Leaders as Valued Professionals」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中