ヨーロッパの「感染ピーク越え」は幻想なのか
An Oncoming Train at the End of the Tunnel
スペイン各地では、特に週末が始まる金曜日には道路が封鎖され、買い物客が警察に外出理由を問われた場合に備えて商店は証明書を発行している。子供の外出は一切認められておらず、3月10日に始まった休校措置は夏休み明けまで続く可能性が高い。
食料品店は早々に、レジ待ちの際に確保すべき間隔の目安となるテープを床に張り、レジカウンターに仕切りを設置した。現金は姿を消し、支払いはコンタクトレス決済が常識に。両頰にキスする挨拶が習慣だったこの国で、市民は今や北欧人並みに身体的接触に慎重になっている。
だが出口が見え始めた(と感じられる)一方で、このトンネルがどこまで続くのかは誰にも断定できない。
専門家によれば、スペインでは実際の感染者数のうち最大90%が集計に含まれていない。つまり、公式発表では累計約15万7000人(4月10日時点)だが、実際は100万人を超える可能性がある。
感染の範囲を把握するため、スペイン政府は特定の世帯を対象とする大規模検査の実施を計画している。こうした検査は近日中に封鎖措置を全面的、または部分的に解除する上で必要不可欠だ。
その前提には、初期の感染によって「集団免疫」を獲得したという想定がある。しかし、中国の回復患者を対象としたごく予備的な研究を見る限り、それが正しい想定かどうかは判然としない。
緩む警戒と新たな懸念
4月10日時点で、スペインの公式死者数はイタリア、アメリカに次いで世界で3番目に多い。ただし、この数字も無意味だ。死者にカウントされているのは、検査で陽性と判明し、その後に病院で死亡した患者だけ。入院前、あるいは介護施設で亡くなったり、原因不明の肺炎で死亡したりした人は含まれていない。
この数週間、首都マドリード市内の墓地で埋葬される遺体があまりに多いとあって、スペイン当局は公式集計に大きな漏れがあることを認識し始めている。地方政府の見解によれば、実際の数字は2~6倍に上る可能性がある。
感染のピークの見極めがどれほど困難であれ、経済活動の再開を訴える声は大きくなる一方だ。特に北部での工場閉鎖が今後も続きそうなイタリアでは、失業が深刻な問題に。既に2桁台にあるスペインの失業率も急上昇している。
欧州委員会は、EU各国が導入した封鎖措置の解除に向けたロードマップの発表を予定していたが、反対を受けて4月7日に断念。4月9日には、EUが最大5400億ユーロの経済対策で合意したものの、加盟各国間の対立は解消されていない。