最新記事

感染症対策

緊急事態宣言と経済対策──想定を超えるスピードに政策は追いつけるか

2020年4月8日(水)14時30分
矢嶋 康次(ニッセイ基礎研究所)

先行きが見通せない今、政府の役割が特に重要(4月7日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開催した安倍首相) Franck Robichon/Pool via REUTERS

<当初は「対岸の火事」に思われた新型コロナウイルスの国内流行と緊急事態宣言により、多くの人や企業が今後に不安を抱いている。政府がやるべきことは何か>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年4月7日付)からの転載です。

緊急事態宣言 『強制力を伴う措置は少ないが、日本では自粛がさらに進む可能性大』

新型コロナウイルスの感染拡大が国民生活を脅かしている。4月6日、首都圏などで感染者が急増している事態を踏まえ、安倍晋三首相が「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)」に基づく「緊急事態宣言」を7日にも発令する意向を表明した。対象区域は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県で、5月6日までを実施期間とする方針とされる。宣言の効力は、8日の午前0時に生じる。

緊急事態宣言は、政府対策本部長である安倍首相が「新型コロナウイルスが国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件(重篤症例の発生頻度が高い場合、感染経路が特定できない場合など)に該当する事態が発生した」と認めるときに発令される。この宣言は、安倍首相が措置を続けることが必要なくなったと判断し、「解除宣言」が出されるまで継続される。

対象区域に指定された都道府県知事は、緊急事態宣言の発令により、教育機関の閉鎖、外出自粛の要請、集会やイベントなどの開催制限といった措置を、法的根拠をもって実施できるようになる。ただし、措置の多くは、国民に対して協力を求める「要請」や、法的な履行義務を持つが罰則を伴わない「指示」であり、強制力を伴う措置は、臨時に医療施設を開設する場合や必要物資(医薬品や食品など)を確保する場合に限られる[図表1]。

Nissei200408_1.jpg

従って、厳密な意味での「ロックダウン(都市封鎖)」を日本で実施することは難しく、海外に比べて強制力の弱い措置になると見られる。しかし、規律を順守し、集団行動を得意とする日本の国民性を踏まえれば、多くの市民や企業は、要請に沿って日常生活や営業活動の自粛を進めるだろう。

今回の緊急事態宣言の対象には、東京都など7都府県(埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、福岡県、兵庫県)が指定されたが、その県内総生産は261.2兆円(2016年度県民経済計算ベース)と国内総生産の47.5%を占める。活動自粛で減少が見込まれる消費には、「外食・宿泊」「娯楽・レジャー・文化」「交通」などが挙げられるが、それら全てを合わせると家計最終消費支出の半分程度になる。緊急事態宣言による外出自粛の要請期間は「1か月」。従って、この期間を自粛が強まる期間と想定すれば、国内総生産は約5.7兆円、年間1.04%程度が減少する計算となる[図表2]。

Nissei200408_2.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中