最新記事

抗体検査

ロックダウンからの「出口戦略」、「免疫獲得証明書」を発行とその問題点とは

2020年4月6日(月)19時50分
松岡由希子

抗体検査は重要な武器になる可能性があるが、問題も......Sky News-YouTube

<都市封鎖を実施している国では、その「出口戦略」の検討がすすめられている。ドイツの研究チームは、10万人以上を対象に、新型コロナウイルスへの抗体の有無を調べる血液検査を実施する計画を明らかにした......>

世界各国で、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制または遅延させるため、国や地域を封鎖し、国民や市民、企業の活動を強制的に制限する「都市封鎖(ロックダウン)」の措置が講じられている。イタリアでは、2020年3月11日から実施されている全産業休業措置期間が4月13日まで延長され、スペインでも、3月30日から4月9日までの間、国内の経済活動を原則として停止している。

都市封鎖は、人々の行動を制限し、人と人との接触機会を減らすことで、新型コロナウイルスが他の人に飛散する機会を低減させるもので、感染拡大を一時的に抑制するものの、これを解除すれば、爆発的な感染拡大が再燃するおそれがある。そのため、都市封鎖を実施している国では、その「出口戦略」の検討がすすめられている。

ドイツの研究者、10万人以上に抗体検査実施を計画

独誌「デア・シュピーゲル」によると、独ヘルムホルツ感染症研究センター、ドイツ連邦保健省傘下のロベルト・コッホ研究所(RKI)らの研究チームは、4月以降、10万人以上を対象に、新型コロナウイルスへの抗体の有無を調べる血液検査を実施する計画を明らかにしている。

新型コロナウイルスが国内でどのくらい広がっているのかを把握するとともに、実際の致死率を明らかにするのが狙いだ。この抗体検査で陽性であれば、すでに新型コロナウイルスの保菌者となっており、一定の免疫を備えていると考えられる。

この研究プロジェクトを主導するヘルムホルツ感染症研究センターの疫学者ジェラール・クラウゼ教授は「この抗体検査で新型コロナウイルスへの免疫獲得が証明された人に『免疫獲得証明書』を発行し、優先的に行動制限を解除していく」というアイデアを提案している。たとえば、新型コロナウイルス感染症から回復した医療従事者を早期に職場復帰させたり、学校再開にあたって「免疫獲得証明書」を発行された教職員から優先的に配置することなどが可能になるという。

このアイデアは「新型コロナウイルス感染症から回復し、抗体検査で陽性であれば、長期にわたって感染から免れる」ことを前提としている。しかしながら、現時点では、新型コロナウイルスについて解明されていないことも多い。

再感染しない? 日本では再感染の例も

アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、米テレビ番組「ザ・デイリー・ショー」で「100%確実とは言い切れないが、新型コロナウイルス感染症から回復した人は免疫を持っているだろう」との見解を語っている。

一方、日本では、1月29日に新型コロナウイルスへの感染が確認された大阪府在住の40代女性が、2月6日に陰性となったものの、2月26日に再び陽性となった。同様の症例は、4月6日、北海道でも確認されている。

また、免疫が獲得できるとしても、免疫が持続する期間はわかっていない。コロナウイルスの一種であるSARSコロナウイルスで引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)の患者でも、免疫が持続する期間は感染からわずか1年程度だ。

また、このアプローチにおいては、抗体検査の精度を担保することも不可欠である。英国では、新型コロナウイルスの検査キットが薬局などで販売されつつあるが、英紙ガーディアンによると、その信頼性には、ばらつきがあるのが現状だ。

偽造が横行するおそれも

新型コロナウイルスへの抗体獲得が証明された人から優先的に行動制限を解除するというアプローチを採ると、偽造が横行するおそれもある。英イーストアングリア大学のポール・ハンター教授は「医療従事者などの一部の職種に限定しなければ、優先的に行動制限を解除してもらい、職場復帰しようと、人々が外出して、新型コロナウイルスに意図的に感染しようとするかもしれない」との懸念を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中