「アビガン」は世界を救う新型コロナウイルス治療薬となれるか
圧倒的なスピードで試験を進めている中国
この薬の有効性については、最近、決着がついた。中国の医師たちが3月18日にアメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』にカレトラと標準的な支持療法だけを比較したランダム化試験の結果を発表したのだ。
『NEJM』は世界でもっとも権威がある臨床医学誌で、その影響力は絶大だ。この研究では症状の改善までに要した時間も致死率も両群に有意な差はなかった。つまり、カレトラは新型コロナウイルスには効かないことが明らかとなった。
特記すべきは、この臨床研究が新型コロナウイルスの遺伝子配列が明らかとなってから1週間後の1月18日に最初の患者が登録されていることだ。資金は中国政府が助成した。圧倒的なスピード感だ。
しかも、この試験はランダム化比較試験の形で実施されている。カレトラの有用性を評価するために、対照群を置くことだ。患者はくじ引きなどによりランダムに割り振られる。ランダム化比較試験は、臨床研究の中でもっとも信頼度が高いとされている。
ただ、実施は難しい。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際にはいかにして信頼できる臨床試験を実施するか、特にランダム化の是非が議論された。人権意識が希薄な中国では、このことは問題とならなかった。
研究で示されたカレトラの有用性
カレトラの有用性については、中国の広州市第八人民病院の医師たちが実施した別の臨床研究でも再確認されている。この研究では軽度〜中等度の新型コロナウイルス感染患者44人をカレトラ投与群と対照群に分けて、カレトラの有効性を評価したが、臨床的な転帰(病気が進行してほかの状態になること)は両群で差がなかった。
複数のランダム化比較試験で共通する結果が出た。カレトラは新型コロナウイルスの治療で効果は期待できそうにない。この事実は重要だ。新型コロナウイルスの治療薬を待望する患者に伝えると同時に、現在進行中の臨床試験は続行の是非を議論しなければならない。
もう1つの結果は期待の持てるものだった。
武漢大学中南病院で実施されたファビピラビルの臨床研究だ。3月18日に中国政府が発表した。ファビピラビルは「アビガン」の商品名で富士フイルム富山化学が開発した日本発の抗インフルエンザ治療薬だ(※本来複数の製薬企業から同一成分の薬が発売されている際の表記では、成分名のファビピラビルを使うのが一般的である。しかし、日本ではアビガンの商品名でその名前が取りざたされているので、以後は「ファビピラビル(アビガン)」と表記することをあらかじめお断りしておく)。