最新記事

エネルギー

原油価格「マイナス40ドル」、消費者に恩恵は?

US Gas Prices Hit Record Lows as Crude Oil Crashes Below $0 For First Time

2020年4月21日(火)18時03分
ベンジャミン・フィアナウ

今、原油は生産するのも止めるのも地獄 Morteza Nikoubazl-REUTERS

<史上初めてのマイナス価格の意味は、お金を出しても原油の買い手がいないということだ。新型コロナウイルスの影響がここまできた>

アメリカの原油先物は4月20日、史上初めて0ドルを割ってマイナス37.59ドルを記録した。業界筋は原因として、新型コロナウイルス感染症によるロックダウン(都市封鎖)による需要不足と、余った原油の貯蔵場所の不足を挙げる。

今年1月5日に64ドル72セントの高値を付けたウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、マイナス37.59ドルまで暴落した。商品取引の専門家ボブ・イアッチノは本誌に対し、マイナス価格は前例がないと述べた。

複数の石油トレーダーによると、5月渡しの原油は需要がなく、貯蔵するスペースもないという。また、来週ペルシャ湾に到着する原油も数カ月前に発注されたもので、今は行き先を失っている。貯蔵スペースと物理的輸送にかかるコストは、需要が減少しても変わらずかかる。つまり、現在原油の売り手は、買い手にお金を払って買ってもらわなければならない状況ということだ。

マイナス価格でも操業を止めない理由

ただし原油先物がマイナス価格になったといっても、ガソリンを買う消費者までがお金をもらえるわけではない、と専門家は警告する。マイナスになった5月渡しの原油先物の期限は4月21日、つまり今日なのだ。

「目先の原油需要がなくなっているのは、世界中で外出禁止令が出されているためだ。だから売り手は、『この原油を始末してくれたらこっちも助かる』と言って歩いている状態だ」と、イアッチノは言う。「1バレルあたりマイナス35〜40ドルということは、1000バレル分の先物を買っておけば、将来、原油を受け取った時に3万5000ドルを手に入ることになる。もっとも、その原油をどこに保管するかは別問題だが」

原油先物が0ドルを下回る「異常」事態のもう一つの理由は、貯蔵コストが現時点の需要を超えてしまったせいだと言う。原油は、環境に優しい貯蔵施設か、規制当局から承認を受けたタンクに保管しなければならない。

コンサルタント会社エナジー・アスペクツのチーフ石油アナリスト、アムリタ・センは本誌にこう説明する。「原油価格が0ドルになれば、生産者は普通、生産を止めるはずだ。だが実際は、お金を払ってでも誰かに原油を引き取ってもらった方が、生産設備を閉鎖するよりは経済的だ。原油の生産設備は閉鎖するにも莫大なコストがかかる」

センはアメリカの消費者に対し、原油先物の価格暴落は長期的な価値を反映したものではない可能性が高いと述べ、4月20日に価格がマイナスになったからと言って、ドライバーが「ガソリンを満タンにしてお金をもらえる」事態はあり得ないと釘を刺した。とはいえ、短期的なガソリン小売価格は、すでに多くの州で1ガロンあたり1ドルを割っている。昨年2019年の同時期は、1ガロンあたり2ドル83セントだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中