緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)
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抗生物質は人間だけでなく、畜産業、水産業、農業など幅広い分野で用いられ、そこで発生する耐性菌がヒトに伝播することも知られている。特に、家畜の病気の予防や成長促進のために大量の抗生物質が使用され、さまざまな耐性菌が発生し、人間にも伝播している。
対策がなければ、薬剤耐性菌による死亡者数は、2050年までに世界全体で年間1000万人に上り、経済損失は100兆ドルと推定されている。
このように、新興感染症として出現した病原菌のほとんどは、封じ込めや根絶ができていないが、国の自助努力と国際協力によって、その拡大はほぼ抑えられている。データやエビデンスを積み、研究・開発を進めることで、敵との闘い方が分かってきたものもある。
診断が困難で致死率が高かったHIVは、僻地の村の中でも15分で診断ができるようになった。完全にウイルスを除去できないものの、30種類以上の薬が開発されて死亡率は急減した。
新型肺炎についても、世界中に感染が広がっているが、オーバーシューティングを回避し、流行のピークを下げて遅らせるための介入ができれば、他の疾病と同様にうまく闘い、付き合っていけると思う。
新型肺炎との闘いはまだ終わっていない。いやまさにその真っただ中にあるものの、現存する他の感染症も忘れてはならず、また、将来の新たな感染症の出現も考えて、中長期的な準備もしなければならない。今後、われわれはどう対処すればいいのだろうか。
感染症には国境がなく、新たな病原菌はどこからやって来るか分からない。早い段階で疑わしき情報は全て把握し、確認して、対策を早めに実施しなければならない。
これに対して2000年にWHOは「地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)」を立ち上げ、世界200カ所以上の研究・援助機関などと協力し、世界中の感染症流行への対策、調査、人材育成を推進している。
新たな感染症が発生した国が情報を隠す場合があるので、対策が遅れないよう、改正した国際保健規則(IHR)を遵守させ、WHOへの通報義務も強化している。
また、将来起こり得る感染症の流行を止めるワクチンの開発を目的として、2017年のダボス会議で「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が発足した。政府、民間企業、慈善団体、市民団体などによる革新的パートナーシップだが、今回の新型肺炎でもワクチン開発のため製薬企業や大学などとの連携が進んでいる。
私が勤めるグローバルファンドは、3大感染症(エイズ、結核、マラリア)の2030年までの流行終息を目標に支援を進めているが、エボラ熱や新型肺炎では緊急支援を行い、新たな感染症流行への対応にもつながる保健システムの強化についても援助している。
3月28日現在、すでに26カ国の開発途上国から新型肺炎に関する支援要請があり、5日以内に申請書をレビューして支援を決定しているが、そこでは将来の新たな感染症にも対応できる検査室機能の強化やサーベイランス(感染症の発生動向調査)の強化なども支援対象となる。