最新記事

新型コロナウイルス

緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

MOVING TOWARD PLANETARY HEALTH

2020年3月30日(月)18時50分
國井修 (グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

薬剤耐性菌という新たな恐怖

このように、新たな感染症が発生し流行する背景には何があるのだろうか。1つは近年、森林伐採や土地開発などに伴い、自然環境が破壊され、生態系が崩れる地域が増えたことだろうか。

私は1990年代に、エボラ熱が流行した中央アフリカのガボンを調査で訪れたことがある。熱帯雨林の中にある村に向かい、夜行列車やジープで何時間も移動した。

真っすぐで広い道が森の奥深くまで続く。外資系会社が直径数メートルもある巨木を伐採し輸送するためである。その道沿いでは、サル、ワニからネズミまで、さまざまな野生動物が売られていた。

そんな村の1つで、エボラ熱が発生し、周囲に拡大していった。以前なら村の風土病で終わっていたかもしれない。しかし、村から都市への人の移動、人口密度の増加、航空網の発達などによって、アフリカ奥地の風土病は都市に侵入し、さらに世界に広がる時代になったのである。

蚊が媒介する新興感染症、また人獣共通感染症も多い。蚊の種類は異なるが、デング熱、ウエストナイル熱、黄熱、ジカ熱、チクングニア熱、マラリアなどがそうだ。

これらは熱帯地方だけでなく、日本のどこでも流行する可能性がある。実際に、マラリアは大正時代以前は全国各地で流行し、年間2万人以上の患者、1000人以上の死者を出していた。

またデング熱は、1960~2010年で世界での発生率が30倍に増加した。人口増加、都市化、海外旅行の増加、地球温暖化が原因といわれている。世界で毎年推定1億〜4億人が感染するが、日本でも年間200例以上の輸入例が報告され、2014年には代々木公園を中心に160例の国内発生が報告された。

ウエストナイル熱も、起源であるウガンダのウエストナイル地方から世界に広がった。アメリカ大陸では1999年に初めてニューヨーク市で発生したが、その3年後には全米各州に流行が拡大した。2018年の全米の感染者数は2647人、死者数は167人に上る。

2つ目の背景として、近年では抗生物質に対する薬剤耐性菌が問題となっている。

病原菌が完全に死滅する前に薬を途中でやめてしまう、有効量よりも低用量の薬を処方または服用する、純度の低い粗悪な薬が出回る、などが原因で、生き残った病原菌が薬に対する耐性を強め、薬が効かなくなってくる。また、それが周囲に伝播していくのである。

世界で発生している薬剤耐性の3分の1を占めるのが結核だ。推定で年間48万人以上の薬剤耐性結核患者が発生しているが、診断・治療されているのは3割程度で、その治療成功率は56%である。

マラリアに対する薬剤耐性も課題である。特効薬とされたクロロキンを含め、これまで開発された薬剤のほとんどに耐性ができてしまった。薬剤耐性マラリアはいつも、東南アジアのメコン河流域の国々で発生し、世界に広がっていく。

薬の不適切な使用や偽薬の蔓延などが原因とみられている。近年開発された特効薬であるアーテスネート製剤にも耐性が出てきたため、現在、この地域では封じ込め作戦が展開されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

リビア軍参謀総長、トルコの墜落事故で死亡

ビジネス

米国株式市場=続伸、S&Pが終値で最高値 グロース

ビジネス

再送-11月の米製造業生産は横ばい、自動車関連は減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中