最新記事

テロ対策

比ドゥテルテを悩ますイスラム教武装組織アブサヤフ 誘拐された医師、銃撃戦の末救出

2020年3月27日(金)10時28分
大塚智彦(PanAsiaNews)

自爆テロ実行のグループ

アブサヤフの中には身代金目的の誘拐を資金獲得の手段として「誘拐ビジネス」に手を染めるグループと本来の「イスラム教に基づく独立」を目指して政府軍や警察と戦闘を続ける中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓うグループの2派を軸に複数の小グループが乱立状態で存在しているとも指摘されている。

フィリピン治安当局などによると、今回のモレノ医師の誘拐に関わった可能性が高いのはムンディ・サワジャン容疑者に率いられたグループとみられている。

ムンディ・サワジャン容疑者はフィリピン南部に残るIS系グループの残党を率いているとされるハティブ・ハジャン・サワジャン容疑者の甥にあたる人物とされている。

ムンディ・サワジャン容疑者は2019年1月27日にスールー州ホロ市のキリスト教教会を狙った自爆テロを計画した首謀者として治安当局が行方を追っている人物。この時のテロはインドネシア人男女2人が自爆テロの実行犯で、市民など23人が死亡している。

ムンディ・サワジャン容疑者率いるグループは「誘拐ビジネス」に資金獲得の活路を見出そうとしているとされ、1月16日にマレーシア領タンビサン島沖の海域で操業中に誘拐されたインドネシア人漁民5人の誘拐にも関与しているとみられている。

フィリピン治安当局では、依然として行方が分からない状態のインドネシア人漁民5人の解放、救出を目指してアブサヤフとムンディ・サワジャン容疑者率いるグループに対する追跡捜査にさらに力を入れ、最終的には同グループの壊滅を目指すとしている。

フィリピンのドゥテルテ大統領は現在直面しているコロナウイルスの対策への全力対応に集中することを目的に政府軍と武装闘争を続けているフィリピン共産党の武装部門である「新人民軍(NPA)」との間で一時停戦することで合意している。

しかしアブサヤフなどイスラム系武装組織との間ではそうした動きは現在まで具体化しておらず、ドゥテルテ大統領はコロナウイルス対策と並んでテロ組織との戦いからも手を抜けない事態となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200331issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

IMFと世銀、基本回帰でトランプ政権の信頼得る必要

ビジネス

中国のボーイング機受領拒否、関税が理由と幹部

ワールド

韓国GDP、第1四半期は予想外のマイナス 追加利下

ビジネス

米キャンター、SBGなどとビットコイン投資企業設立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中