比ドゥテルテを悩ますイスラム教武装組織アブサヤフ 誘拐された医師、銃撃戦の末救出
自爆テロ実行のグループ
アブサヤフの中には身代金目的の誘拐を資金獲得の手段として「誘拐ビジネス」に手を染めるグループと本来の「イスラム教に基づく独立」を目指して政府軍や警察と戦闘を続ける中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓うグループの2派を軸に複数の小グループが乱立状態で存在しているとも指摘されている。
フィリピン治安当局などによると、今回のモレノ医師の誘拐に関わった可能性が高いのはムンディ・サワジャン容疑者に率いられたグループとみられている。
ムンディ・サワジャン容疑者はフィリピン南部に残るIS系グループの残党を率いているとされるハティブ・ハジャン・サワジャン容疑者の甥にあたる人物とされている。
ムンディ・サワジャン容疑者は2019年1月27日にスールー州ホロ市のキリスト教教会を狙った自爆テロを計画した首謀者として治安当局が行方を追っている人物。この時のテロはインドネシア人男女2人が自爆テロの実行犯で、市民など23人が死亡している。
ムンディ・サワジャン容疑者率いるグループは「誘拐ビジネス」に資金獲得の活路を見出そうとしているとされ、1月16日にマレーシア領タンビサン島沖の海域で操業中に誘拐されたインドネシア人漁民5人の誘拐にも関与しているとみられている。
フィリピン治安当局では、依然として行方が分からない状態のインドネシア人漁民5人の解放、救出を目指してアブサヤフとムンディ・サワジャン容疑者率いるグループに対する追跡捜査にさらに力を入れ、最終的には同グループの壊滅を目指すとしている。
フィリピンのドゥテルテ大統領は現在直面しているコロナウイルスの対策への全力対応に集中することを目的に政府軍と武装闘争を続けているフィリピン共産党の武装部門である「新人民軍(NPA)」との間で一時停戦することで合意している。
しかしアブサヤフなどイスラム系武装組織との間ではそうした動きは現在まで具体化しておらず、ドゥテルテ大統領はコロナウイルス対策と並んでテロ組織との戦いからも手を抜けない事態となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。