ほほ笑みの国タイの憂鬱──中国偏重がもたらす経済危機と感染危機
CHINA BLUES
タイ経済は観光業への依存度が高いため、観光業への打撃は経済全体への打撃となる。マレーシア金融大手RHB銀行の試算では、新型コロナウイルスとそれに伴う中国人観光客の減少は、タイ経済に35億1000万ドルの損失をもたらしそうだ。
中国偏重を改める気配なし
市民は既に、経済と保健の2大危機襲来に身構えている。タイ最大の観光名所であるワット・プラ・ケオ(エメラルド寺院)など多くの観光地では、ツアーガイドが手術用マスクを着けて客待ちをしている。
だが、政府の対応は煮え切らない。元陸軍大将のプラユットは、2014年にクーデターで権力を握って以来、中国との関係強化を図ってきた。2018年のタイム誌とのインタビューでは、中国を「タイにとって1番のパートナー」だと述べるとともに、「タイと中国の間には、数千年にわたる友好関係がある」と胸を張った。
2019年に中国の李克強(リー・コーチアン)首相がタイを訪問したとき、プラユットは中国人投資家も歓迎し、中国の一帯一路構想におけるタイの貢献をアピールした。同年9月に、中国共産党で党外交を担う宋濤(ソン・タオ)中央対外連絡部長と会談したときは、中国政府が国民にタイ旅行を奨励していることに感謝の意を表明。これに先立ちタイ政府は1年間にわたり、中国人観光客にはビザ(査証)を免除する計画も明らかにしていた。
新型コロナウイルスの拡大が、両国の観光業における協力関係にどのような影響を与えるかは、まだ分からない。ただ、プラユットが国内外の政策を牛耳っていることを考えると、劇的な変化が起こることは当面なさそうだ。
だが、国民の間では政府の対策が甘いという不満がくすぶっている。プラユットは、「政府が世界基準の対策を講じていることを信じてほしい」と国民に訴えたが、1月末に体調を崩してイベントの出席を取りやめたときは、新型コロナウイルスに感染したのではないかとの噂が立ち、保健相が火消しに追われた。
また、タイ経済はしばらくの間、中国人観光客に過剰依存してきたツケに苦しみそうだ。中国人からの観光収入はタイのGDPの2.7%を占めるという最近の試算を受け、通貨バーツは大幅安となった。