ほほ笑みの国タイの憂鬱──中国偏重がもたらす経済危機と感染危機
CHINA BLUES
市民から供物を受け取る托鉢僧もマスク姿(バンコク、2月5日) ATHIT PERAWONGMETHA-REUTERS
<新型肺炎の感染拡大で中国人に過剰依存してきた観光業への打撃は必至──それでも中国寄りの政府に国民の不満が募る>
ほほ笑みの国タイが、ほほ笑んでばかりいられない問題に相次ぎ見舞われている。最南部では、2004年に分離独立運動が活発化して以来、政府軍と反政府勢力の衝突が後を絶たない。首都バンコクでは今年1月、強権的なプラユット・チャンオーチャー首相に抗議する大規模デモが起きた。東北部では2月、陸軍の兵士がショッピングモールで銃を乱射し、29人が死亡、数十人が重軽傷を負う惨事が起きた。
経済も悪化している。2018年の時点で「辛うじて食べていくので精いっぱい」と答えた国民は40%を超えた。景気減速は一段と鮮明になり、プラユットは2019年に大規模な刺激策を打ち出したところだった。
そこに新型コロナウイルス騒動が起きた。1月13日、タイは中国以外で初めて感染者が確認された国になった。以後、状況は悪化し、現在の感染者数は50人を超える。
タイが中国国外で感染者第1号を出した背景には、観光業における両国の密接な関係がある。観光業はタイのGDPの12〜20%を占める最大の産業だが、その収入の大部分は中国人がもたらしている。2019年にタイを訪れた中国人は約1100万人に上り、外国人観光客で最大の27.6%を占めた。だがそこには、今回のようなリスクも潜んでいる。
中国自身を含め、世界中の国が中国との渡航制限に乗り出すなか、タイ国内でも警戒感は高まっている。バンコク市民の多くは、中国人観光客がよく訪れるショッピングモールを避けるようになった。だが、中国人観光客が大幅に減ることは、タイにとってウイルスと同じくらい大きな脅威となる恐れがある。
新型コロナウイルス問題が起きる前から、タイを訪れる中国人は減少傾向にあった。2018年にプーケット島沖で中国人を乗せた船が沈没し、47人が犠牲になる事故が起きて以来、中国人観光客は激減。2019年1〜6月は前年同期比5%減となっていた。通貨バーツの上昇も、既に米中貿易戦争のあおりを受けていた中国人にとって痛かった。タイ観光・スポーツ省は、2020年の中国人観光客は900万人に落ち込むと予測している。
タイの観光業界自体もトラブル続きだった。フラッグキャリアであるタイ国際航空は大幅な赤字経営が続いており、2019年10月には経営破綻の警告を受けた。観光客に人気のビーチが一時閉鎖されるという問題も起きた。大量の観光客が近くのサンゴ礁にダメージを与えたためだ。そこへきて、感染症の拡大を抑えるために、中国政府が自国民に海外旅行を思いとどまるよう促しているのだから、タイにとっては泣きっ面に蜂だ。