背後に千億円の対中コロナ支援:中露首脳電話会談
それでもなお、アメリカの財務長官・ムニューシンの力の方が大きかったのだろう。何と言ってもIMFに参画しているメンバーの数も多いし、WHOのテドロス事務局長を抱き込むような具合にはいかなかった。だから中国はBRICS銀行に働きかけたわけだ。もちろんプーチンの力を借りたことだろう。プーチンもまたアメリカに対抗するために習近平の力を必要としている。二人は相乗効果を発揮しながら長期政権を実現し、何れは選挙で大統領が変わるアメリカに対抗しようと狙っている。
これまで何度も書いてきたが、マカオの元宗主国ポルトガルの首相であったグテーレスを国連の事務総長に就任させることに奔走したのも習近平政権だ。IMFのゲオルギエバ同様、グテーレスやWHOのテドロス事務局長も、よくCCTVに顔を出す。この3人とも堂々と習近平礼賛を言ってのける国際組織の長なのである。
一方、中国のコロナ発症の感染者数の急激な増加は抑えられ、湖北省などに派遣されていた中国全土の医療支援部隊は既に各地に戻ったし、突貫工事で作った16の野戦病院的コンテナ医院も全て閉鎖された。今となっては肺炎発生地に対する資金的支援は必要となくなっている。
そこで中国はこれから、この支援金を用いてコロナ感染に苦しむ多くの国々をチャイナ・マネーで助けていくことになるわけだ。習近平の「人類運命共同体」理論が、どれほど素晴らしいかを当該国に言わせ、国際社会における地位を確固たるものとしようとしている。
一党支配体制と言論弾圧がなかったら、新型コロナウイルスは、ここまで全世界に拡散し人類を危機に追いやることもなかっただろう。その責任を負わず、全世界に謝罪もせず、むしろ「中国に感謝すべきである」と豪語する習近平。
これはちょうど、日本のODAを用いて発展途上国を支援して国際社会における発言権を強化してきた構図と類似形を成す。
いま日本を含め全世界は習近平が巻き散らしたコロナ対応で精一杯だが、一方ではこういった中国の戦略に留意しておいた方が良いだろう。そうでなければ必ず足をすくわれる。安倍首相は特に肝に銘じておかなければならないのではないだろうか。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。