中国専門家チームを率いる「SARSの英雄」医師、鐘南山とは何者か
DR. ZHONG NANSHAN IS IN
国内外のメディアの取材に応える鐘南山(2020年2月11日、広州市) THOMAS SUEN - REUTERS
<17年前のSARS禍で共産党と闘い「英雄」と称えられた医師、鐘南山が新型コロナ危機でも注目を集めている。今回は中国政府で専門家チームを率いる鐘は、今も「英雄」なのか? 本誌3月17日号の特集「感染症vs人類」より>
世界で最も人口の多い都市の1つ、北京。その街中は今、奇妙なほど静かだ。自主的な自宅待機を徹底させるために、集合住宅は正面玄関以外の出入り口が封鎖されている。
静まり返った通りと対照的に、中国で最も利用者の多いメッセージアプリ、微信(WeChat)はにぎわっている。毎日大量に投稿される記事や画像、動画の大半は、COVID-19(2019年型コロナウイルス感染症)の最新情報。
そして、ありとあらゆる内容が並ぶなかでひときわ注目を集めているのが、医師の鐘南山(チョン・ナンシャン)だ。
感染症研究の第一人者で呼吸器の専門医の鐘を、中国メディアは「SARSの英雄」と呼ぶ。2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るった際、中国の公衆衛生当局と政府高官は国民の信頼を失った一方で、鐘の誠実さは称賛を浴びた。
国営メディアは当初、SARSのウイルスはコントロールできていると伝えていたが、鐘はそれを否定し、いち早く警鐘を鳴らした。SARS終息後のインタビューで、正直で勇気ある行動をたたえられた鐘はこう答えた。「自分を抑えることができなかった。だから、完全にはコントロールできていないと発言した」
鐘は83歳と高齢ながら、今回、国家衛生健康委員会の「ハイレベル専門家チーム」のトップに任命された。さらに、事実上の広報官として、中国語と英語のメディアの取材を多数受けている。
断固とした決意で透明性の高い危機管理に取り組んでいることを強調したい共産党にとって、鐘はまさに適任だ。彼を前面に立たせることは、中央政府に対する非難の矛先を変える戦略でもある。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、17年前のSARSが招いた公衆衛生の危機と、不安になるほどよく似ている。健康被害に関する警告を適切なタイミングと方法で市民に知らせようという努力に、政府が介入している点も同じだ。
一方で、中国のソーシャルメディアには、ウイルスに関する議論があふれている。手洗いの徹底を呼び掛ける公衆衛生の専門家もいれば、ワクチンの開発に成功したという虚偽の噂もある。政府に対する厳しい批判が今のところ検閲で削除されていないのは、不満のはけ口として容認されているのだろう。