最新記事

新型コロナウイルス

ダイヤモンド・プリンセス号の感染データがあぶり出す「致死率」の真実

NOT THAT DEADLY

2020年3月11日(水)17時30分
ジェレミー・ファウスト(ハーバード大学医科大学院保健政策・公衆衛生部門講師)

ダイヤモンド・プリンセスのデータは、70歳以上の致死率は中国の統計の8分の1(1.1%)、80歳以上の致死率は3分の1(4.9%)であることを示唆している。

もちろんこれらの数字も懸念すべきものではある。だが、ダイヤモンド・プリンセスで陽性とされた人は、高ウイルス量に繰り返しさらされた可能性が高い。また、一部の治療は遅れた。つまり、きちんとした手順が守られていれば、ダイヤモンド・プリンセスでの致死率はもっと低かった可能性があるのだ。

さらに、乗客はクルーズ船の旅に参加できるほど健康だったとはいえ、一般的な人口を反映して、多くの人が生活習慣病を抱えていただろう。従ってダイヤモンド・プリンセスのデータに基づく推定致死率は、合理的と考えてよさそうだ。

これらの事実を合わせて考えると、新型コロナウイルス感染症は、ほとんどの若者にとっては比較的良性の病気である一方で、一部の生活習慣病を抱える高齢者にとっては、深刻な病気である可能性を示している(それでも報道されているほどのリスクはないだろう)。

中国では10歳以下の感染者数百人のうち死者はゼロで、健康な成人感染者(高齢者以外)の致死率は0.2〜0.4%だ。おそらく検査を受けていない大量の無症状感染者を含めれば、もっと低くなるだろう。

若者の致死率が低いことを考えると、私たちがいま集中して資源を投じるべきなのは、健康な人への感染を防ぐことではなく(いずれにせよ感染拡大は不可避だ)、重症化するリスクが高い人たちを守ることだ。対象となるのは、70歳以上の全人口と、この種のウイルスに対してもともと高いリスクを持つ人たちだ。

つまり重点的に対策を講じるべきなのは、学校ではなく老人ホーム、飛行機ではなく病院だ。高リスクグループは比較的限られているが、彼らを適切に守らなければ、その致死率は悲劇的に高くなりかねない。

幸いこのウイルスの感染力や潜伏期間、そしてハイリスク者の人物像や居場所は分かっている。食料やマスクを買い込む健康な人たちは、不安を的外れなエネルギーに変えているにすぎない。本当にリスクにさらされている人たちを守るのに役立たないなら、その行動は貴重な資源の無駄遣いになりかねない。

©2020 The Slate Group

<2020年3月17日号「感染症vs人類」より>

【参考記事】クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実
【参考記事】新型肺炎ワクチン開発まで「あと数カ月」、イスラエルの研究機関が発表

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税の影響強く懸念、引き続き除外求めていく=加藤

ワールド

ベトナム・スペイン両首相、自由貿易の重要性を強調 

ビジネス

上海外為市場=人民元、23年9月以来の安値 米国の

ワールド

米歳入庁トップが辞任、不法移民情報共有を懸念 今年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中