話題作『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督が語るフランスの現実
――では、『レ・ミゼラブル』を見て、「状況を改善しなければ」と言ったエマニュエル・マクロン大統領の方がいい?
リ:悪人のレベルはもうちょっと低いな。マクロンは銀行家出身なので、ビジネスマン的な手腕が目立っている。
――映画は18年のサッカーW杯でフランスが優勝し、人々が歓喜に沸く場面から始まる。ただこのとき、代表チームに移民系の選手が多いことへの揶揄が、98年の初優勝のときより多かったのでは?
リ:フランス社会の状況はずいぶん変わった。98年当時はジャック・シラクが大統領で、彼はフランス国民に愛されていた。その頃は今のようなイスラム過激派のテロが起きていないし、穏やかだった。その後に出てきたサルコジはさっき言ったとおりだし、フランソワ・オランド大統領とのきはシャルリ・エブド事件があった。マクロンは富裕層優遇だしね。98年はそういう(社会の分断という)問題が顕在化していなかった。
――現場の雰囲気はどうだった?
スティーブ・ティアンチュー:監督が育った街と、自分が育った隣の街は似たところがいっぱいある。両親の背景とか、子供たちの様子とかね。そして夢と野望をもって、彼は監督の道を、僕は役者の道を歩んでいる。そんな同じような価値観を持つ人間と一緒に仕事をすることは素晴らしいことだ。
それに今回の作品には技術スタッフにしても、俳優にしても、ベテランばかりではなく、これからキャリアを積んでいこうという人たちが多かった。自分たちの実力を証明しなければならない、失敗しちゃいけないといというエネルギーのあふれた現場だった。
――自分の育った町で、リラックスして撮影できたと思う。
リ:今回は住民200人くらいを動員したが、みんな自分たちの町の映画だと思って協力してくれた。
ティアンチュー:例えば、ある団体が炊き出しをしてくれたり、警備や交通整理してくれたり、いろいろなところでみんなが協力してくれた。住民が力を合わせて作った映画だと思う。
――子供たちの演技もよかったが、彼らはプロの子役ではない。
リ:みんな街の子供たち。今まで演技をしたことのないような彼らの中から、ひょっとしたら未来の俳優が生まれるんじゃないかと、そういう期待の下にあの子たちをキャスティングした。
――映画の中の警官たちの行動に驚かされるが、あなたの身近にいる警官もああいう感じなのか?
リ:本当にこういう人たちがいるんですよ。治安を取り締まる犯罪防止班(BAC)はだいたい3人組でパトロールする。大抵はベテランの嫌なやつが1人いて、それをなだめる役の中堅どころがいて、新入りがいる。おそらくモンフェルメイユの人なら映画を見て、「ああ、うちの辺りにもこういうやつがいる」って思うはずだ。