最新記事

新型肺炎 何を恐れるべきか

知っておきたい感染症との闘いの歴史──次のパンデミックを防ぐために

HOW TO STOP THE NEXT PANDEMIC

2020年3月5日(木)18時45分
アニー・スパロウ(米マウント・サイナイ医科大学助教)

1720年にペストが大流行したフランスのマルセイユでは住民の約半数が死亡したという DEA-G. DAGLI ORTI-DE AGOSTINI/GETTY IMAGES

<ペスト、天然痘、結核、コレラ――人類が歩んできた失敗と成功の長い道のり。公衆衛生対策は発展してきたが、現在は気候変動や動物とヒトとの交流の増加などの要因が、感染症の蔓延に拍車を掛けている>

感染症は避けられない。ただし、それがパンデミック(世界的流行)となり、国境や大陸さえ越えて制御不能なレベルにまで広がるかどうかは、対応の仕方に左右される。

パンデミック化を後押しするのは、高速の移動ネットワークの存在と高い人口密度だ。どちらも昔は珍しい条件だったが、今では地球上どこにでも存在する。

新型コロナウイルスは、厳密にはまだパンデミックではなく、エピデミック(局所的流行)だ。これは特定の地域や集団で、通常予測される以上の症例数の増加を意味する。

とはいえ、いつの時代にも新たに登場する感染症の最大の特徴は、不確実であることだ。どれだけ広がるかは専門家にも分からない。感染力や致死率は、地域の人口構成や感染症への対応策、感染者が受けられる医療の質などによって、いくらでも変わる。

新型コロナウイルスへの今後の対策を考える上で、歴史に刻まれている感染症への対応を振り返ることには意味があるだろう。過去の例を検証すれば、新型コロナウイルスへの対応策が賢明かどうかを判断するヒントになり得る。

感染症の発生は、動物からヒトに伝染する「人獣共通感染症」によって引き起こされる。種の壁を越えて病気が伝染するのは、相当の対人接触を経た末のことだ。

歴史を振り返っても、その過程にはかなりの時間がかかっている。例えばマラリアが非ヒト霊長類からヒトに感染するまでには、数千年の年月が過ぎていた。

しかし過去50年に限っても、300以上の病原体が新たに出現(または再出現)している。それに加えて、気候変動や砂漠化、動物とヒトとの交流の増加、不十分な医療制度といった要因が感染症の蔓延に拍車を掛けている。

欧州に衝撃を与えたコレラ

通常であれば感染症の発生は、検疫や隔離、予防接種といった対策によって抑えられている。この対応は単一の病原体に的を絞ったものだ。

この方法が取られた最初の例はペストだろう。ペストは、クマネズミに寄生したノミから主に感染する細菌性疾患だ。感染率が高く、発症すると苦痛や手足の壊死などをもたらし、患者は通常3日以内に死亡する。

致死率は約7割で、死者が増え過ぎて埋葬する人手が足りなくなることもあった。1347年に発生して17世紀まで続いた第2次パンデミックでは、当時の世界人口の4分の1に当たる約1億人が死亡した。

このときのパニックの広がりを受けて、その後数世紀にわたる公衆衛生上の施策の原型が生まれた。水際対策や軍隊による検疫、さらには都市や国全体を隔離する「防疫線」が導入された。

保健当局は疑われる症例を戸別訪問で割り出し、感染者用の施設に強制収容。安全な対人距離を保つために約1メートルの棒を持ち歩く「社会距離戦略」が推奨された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中