人気の大統領だったのにオバマの命名運動が振るわない理由
THE PRESIDENTIAL NAMING GAME
オバマ自身が歴史に名を残すことに関心があるのかは不明(オバマ財団や元側近に電話やメールで問い合わせても返事はなかった)で、それも問題の一部かもしれない。彼は退任後は驚くほど目立たず、公の場で発言したり自分の成果をトランプが台無しにしていることを嘆くこともまれだ。回顧録もまだ出版していない(妻ミシェルの回顧録はベストセラーとなった)。
45万人が署名したケースも
レガシーほったらかしで裕福な友人とくつろぐオバマに、民主党内にはいら立ちもある。「あまり厳しいことは言いたくないが、退任後のバラクは(ヴァージン・グループの創業者)リチャード・ブランソンと交遊し、ジミー・カーターではなくジェラルド・フォード流の生き方をしている」と、ギャローは言う。
ステットソン大学のスペリスキーも、オバマ陣営が大統領選で見せた賢明で効果的なブランド構築が「就任後は下火になった」と指摘する。
それでも命名運動は続いた。2017年にはミシシッピ州で南部連合の「大統領」ジェファーソン・デービスにちなんで名付けられた学校がオバマにちなんで改名され、2018年にはバージニア州リッチモンドのJ・E・B・スチュアート小学校が、南北戦争で奴隷制を支持した人物の名前を嫌い、オバマ小学校と改名した。
オバマの名前が持つ公正さに起死回生を懸けるケースもある。例えばデトロイトのチャータースクール(特別認可学校)「トンブクトゥ・アカデミー」は2019年夏、バラク・オバマ・リーダーシップ・アカデミーと名を変えた。「改名すれば理念が一新し、学業成績向上のチャンスにもなると思った」と、創立者のバーナード・パーカーは言う。
命名をめぐる支持者のうねりはたまに起きる。政治サイト「ムーブオン・ドット・オルグ」の請願は45万人を超える署名を集め、現大統領を挑発するためだけに5番街のトランプ・タワー前の一画をバラク・H・オバマ街に改名するようニューヨーク市に要求した。だが市は断固拒否。特にニューヨークの民主党指導者たちはオバマのレガシーにはそぐわない動きだと感じている。「オバマ夫妻は品格、公務への献身、大統領職への敬意の象徴」だと、同市議会のコーリー・ジョンソン議長は2019年8月に語った。
一方、生まれ故郷ハワイではサンディ・ビーチの一件以降、政治家たちが他の案を検討してきた。空港、生誕記念式典、オバマが母の遺灰をまいた海を見下ろす展望台......。それでもまだオバマの名を冠した場所はない。オバマへの賛辞に最も近いのは、レモン、ライム、チェリー、パッショングアバのシロップをかけたかき氷「スノーバマ」。本人も大統領時代の休暇中に味わっている。
だが、チャンは諦めていない。今年1月には州議会の上院議員として、オバマが祖母と暮らしたアパートや夏にアルバイトをしたアイスクリーム店などオバマゆかりの場所に史跡案内を設ける法案を提出した。
「ハワイを訪れる人々と地元住民にとってオバマゆかりの場所を見る好機になるはず。法案が通過し、オバマが育った場所だと一目で分かる記念碑ができることを願っている」
<本誌2020年3月10日号掲載>
【参考記事】オバマは「民主党のレーガン」!?(池上彰)
【参考記事】オバマからトランプへ、米政治の「退化論」(パックン)
2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。