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新型肺炎 何を恐れるべきか

世界が想定すべき新型コロナの最悪シナリオ──他の国々がこれから経験する3つの問題

PREPARE FOR THE WORST

2020年3月9日(月)16時10分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

イタリア北部の感染拡大地域は事実上封鎖された AP/AFLO

<グローバル化が新型コロナウイルス肺炎の経済的・社会的リスクを倍増させている。「もしも」への備えが過剰な反応とは言えない段階が来た。中国が既に直面し、他国がこれから経験するだろう問題には何があるか。本誌「新型肺炎 何を恐れるべきか」特集より>

COVID-19(2019年型コロナウイルス感染症)が世界経済にもたらす影響は、当初の予想より深刻そうだという見方が広まっている。2月24日には世界各地の市場で株価が急落した。
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WHO(世界保健機関)は27日、パンデミック(世界的な大流行)に発展する可能性は高いと述べた。韓国やイラン、イタリアなど複数の国でアウトブレイクの段階に達したとみられ、震源地の中国との関係が確認できない感染例も増えている。

さらに、感染の報告が少ない国でも死者が出ており、まだ明らかになっていない感染パターンが広がっていることも考えられる。その場合、新型コロナウイルスの大流行は2020年の最重要課題となるだろう。

世界がこれほどの規模の感染症に直面することは、久しくなかった。1968年に流行した香港風邪は世界で約100万人が命を落としたが、今回に比べると致死率はかなり低いと考えられる。新型コロナウイルスの致死率(感染者が死亡する率)は確定していないが、1918年に5000万人超の死者を出したスペイン風邪と同じ程度になりそうだ。

医療技術は当時よりはるかに進歩しているが、グローバル化と人口増加が進んだことを考えると、感染症のリスクが減ったとは言えない。

世界的に感染が拡大している今、中国が既に直面し、これから世界の他の国々も経験するだろう問題にはどのようなものがあるだろうか。

1つ目は封鎖社会だ。中国政府は7億人以上の移動を制限し、このうち1億5000万人に自宅待機を命じた。しかし経済が崩壊しかねない状況となり、現在は措置を緩和して人々を仕事に復帰させようとしているが、当局も社会も混乱している。

湖北省武漢市では封鎖の緩和が発表されてから、わずか3時間後に撤回された。北京や上海の街頭も、今なお閑散としている。小規模の企業は破綻寸前で、各業界の売り上げは大幅に落ち込んでいる。中国の港を出る貨物船はほとんど空っぽだ。

外国企業も、既にサプライチェーンの混乱に直面している。2月24日の世界的な株安は感染拡大のリスクを完全には織り込んでいない可能性があり、さらなる下落の恐れもある。

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ニューヨーク証券取引所では株安が止まらない LUCAS JACKSON-REUTERS

渡航制限はさらに広がるか

中国では春節(旧正月)の直前に感染拡大が始まり、多くの人が帰省したまま職場に復帰できなくなったことで、経済への打撃は深刻化した。企業や工場の閉鎖はしばらく続く可能性が高い。理論上は自宅などからのリモートワークである程度補えるはずだが、システム導入や通信インフラが追い付いていない。

このような事態が、これから世界を待ち受けているのだ。とはいえ、民主主義国では、中国のように国内の経済活動に対する強権的な制限はないかもしれない。

【参考記事】新型コロナウイルス感染症はいつ、どう終息するのか

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