最新記事

新型肺炎 何を恐れるべきか

世界が想定すべき新型コロナの最悪シナリオ──他の国々がこれから経験する3つの問題

PREPARE FOR THE WORST

2020年3月9日(月)16時10分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

集団感染が発生した韓国南東部の大邱市は「特別管理地域」に指定され、任意ながら外出自粛や移動制限などの措置は基本的に遵守されている。イタリア北部で立ち入りが禁止されている「レッドゾーン」は、韓国ほどの規模や厳密さはない。インドのように普段から市民生活への規制が多い国も、中国ほど厳格な措置は取れないかもしれない。

ただし、国外渡航に関しては大半の国が封鎖も辞さない構えで、中国路線の運休や減便を行っている。イランなど既に孤立している地域ほど、渡航制限の対象になりやすい。

渡航制限に感染拡大防止の効果はないと、専門家の意見は一致している。だが事態がさらに悪化すれば、今後数週間か数カ月にわたり国外への渡航がさらに難しくなるかもしれない。世界各地から人が集まるイベントは延期や中止が相次ぐだろう。

2つ目はパニック的な買い占めだ。中国では物資不足は心配されたほど深刻になっていない。輸送に携わった人々の英雄的な努力のおかげで、最も感染が拡大した地域にも農産物や飲料水は届いている。

だが香港では、感染者数が少ないにもかかわらず多くの店舗で棚が空っぽの状態が続いた。トイレットペーパーなど日用品の買い占めが起きたためだ。イタリアではパニックになった住民がスーパーに大挙して押し寄せる事態も起きた。マスクや消毒用アルコールなどは世界的に深刻な品薄状態になっている。

不安が広がればどこでも買い占めは起きるが、香港やイタリアのように政府が信頼されていない地域ではその傾向が特に顕著だ。サプライチェーンが断ち切られれば、現実に供給不足が起きパニックになった人々がさらに買い占めに走るだろう。

magSR20200309preparefortheworst-chart2.png

ウイルスは自己増殖ができないため、宿主の生きた細胞の内部で増殖もしくは自己複製することによって生き延びる。宿主の体内に侵入すると、細胞の中に入り込んで宿主本来のシステムを乗っ取り、自分の新しいコピーを作成する。このプロセスのどこかで小さなミスや変化が生じ、ウイルスの変異につながる可能性がある。

各国政府の本気度が問われる

3つ目の問題は差別と分断だ。感染拡大がほぼ中国に限られていた時期でさえ、アジア系差別が世界中で吹き荒れた。

中国では最初に感染が起きた湖北省の出身者が差別され、周辺国では華僑が標的にされた。欧米ではアジア系っぽい顔立ちをしているだけで「バイ菌」扱いされるありさまだ。

99年にトルコとギリシャで相次いで地震が起き、双方の支援活動が関係改善につながったように、自然災害をきっかけに国際協力が進むこともある。だが今回の危機では一部の国々でメディアがウイルスの出所をめぐる陰謀論を流し、疑心暗鬼や憎悪が世論を支配するようになった。

中国政府は米政府の支援の申し出を断り、反米ナショナリズムのプロパガンダを強力に展開。メッセージアプリ微信(WeChat)ではアメリカがウイルスを広めたという陰謀論が検閲もされずに飛び交っている。

【参考記事】新型コロナウイルスは人類への警鐘──感染症拡大にはお決まりのパターンがある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、米株高でも上値追い限定 

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中