トランプ新和平案が浮き彫りにした中東の地殻変動
THE PARADIGM SHIFT ON PALESTINE
ヨルダン川西岸ではパレスチナ人の町にイスラエルの入植地(手前)が隣接する Ammar Awad-REUTERS
<今やアラブ圏にとってパレスチナの窮状は重荷で、イスラエルとの和解の障害になっている>
トランプ米大統領が発表した中東和平案が大幅にイスラエル寄りだったことは、驚くような話ではない。むしろ驚いたのは、世界までもがトランプ案にノーを言うどころか、パレスチナ人を見捨てようとしていることだ。
トランプの和平案はパレスチナ人の「生活の向上」という要望を却下し、領土にまつわるイスラエル側の国民的物語をそのまま受け入れている。パレスチナ人が国家を樹立したとしても、領土はガザ地区と、ヨルダン川西岸の約7割だ。イスラエル入植地が点在し、イスラエル領に囲まれる形になる。首都はパレスチナ側が求める東エルサレムではなく、その郊外。パレスチナ人はイスラエル側が定める「イスラエルの安全に悪影響を及ぼす」活動を企図したり、軍隊を持つことを禁じられる。
このような著しく不公平な提案を示すことで、トランプは仲介者としてのアメリカの信用を傷つけた。さらにはイスラエルとパレスチナの間で国際的合意に達した和平プロセスの原則を台無しにした。パレスチナ人を見捨てようとしている世界の国々の姿を見れば、トランプが11月の大統領選に負けて後継者が和平案を破棄しても、この損失を取り戻すのは難しいだろう。
ゆがんだ和平案がまともに受け止められているという事実は、中東で進む大きな変化の表れだ。かつてはパレスチナ人と連帯することで、断片化していたアラブ世界がつながっていた。しかし今、アラブ世界にとってパレスチナの窮状は重荷であり、イスラエルとの和解の障害になっている。
確かにアラブ連盟は2月初め、カイロでの外相会合でアメリカの和平案を拒否した。だが和平案は、一部アラブ諸国の「共犯と裏切り」なしには現実にならなかった。
トランプ案支持に各国の思惑
バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦の駐米大使は和平案発表の日にホワイトハウスに駆け付け、和平案を承認していることを示した。さらに、サウジアラビアはパレスチナ人を支援するという主張を改めて行っているのに、「トランプ政権の努力を評価する」姿勢を明らかにした。
ヨルダンのアブドラ国王は、イスラエルのヨルダン渓谷併合は深刻な安全保障上の影響を及ぼすと語った。だがその後、「グラスに水が半分入っていることのほうを注目すべき」と肯定的な見方を示している。