クルーズ船の外国人船員を忘れるな──押し付けられた危険任務
マスクを着けて船を清掃するダイヤモンド・プリンセス号のクルー KIM KYUNG HOON-REUTERS
<ダイヤモンド・プリンセス号の乗員の7割以上がフィリピン、インド、インドネシア出身。船内における乗客と乗員の条件は「平等ではない」と橋本岳厚生労働副大臣も認めているが>
バレンタインデーの2月14日、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗員メイ・ファンティロは、同僚たちが踊る動画をツイッターに投稿した。危機のさなかでも元気に頑張っている姿を見せるためだ。船は新型コロナウイルスCOVID-19の感染拡大を受けて、日本の横浜港で隔離されていた。
隔離措置は2月19日に終了したが、ファンティロはもう元気ではなかった。「状況は毎日悪くなる一方。ウイルスがどこにいるのか、私たちには分からない」。そうツイートした彼女は、在日フィリピン大使館に助けを求めた。
乗員1045人の70%以上は、フィリピン、インド、インドネシアのアジア3カ国の出身者だ。このクルーズ船は中国以外で最大の感染スポットだが、乗員たちの窮状はあまり取り上げられてこなかった。これまでに感染が確認された634人のうち、50人以上が乗員だ。
船内に残る人々の試練はまだ終わっていない。乗員は客室の消毒を手伝った後、すぐに「正式な隔離」に入る。船内の隔離を維持するため、長時間労働を続けてきた彼ら自身は、そもそも隔離されていなかった。
乗員はその間、食料や水、医薬品を乗客に届け、潜在的な感染の危機にさらされた。寝る場所は相部屋で、トイレや食事場所も共同だった。
乗員の一部がウイルス検査で陽性と判明すると、隔離システムの不公平さが明らかになった。日本の橋本岳厚生労働副大臣もCNNの取材に対し、乗客と乗員の条件は「平等ではない」と認めている。
多くの感染症専門家が、隔離は失敗だったのではと懸念している。理由の1つは、乗員の隔離が不徹底だったことだ。ハーバード大学公衆衛生学大学院のマイケル・ミナ助教(疫学)は、「乗員は自分を隔離するわけにはいかない。部屋も相部屋だ。明らかに受け入れ難いリスクを彼らに押し付け、感染を広げた」と指摘した。
乗客で医師のアーノルド・ホプランドはニュースサイトのポリティコにこう語った。「乗員はひどく怯えている。彼らは狭い船室に押し込められ、肘と肘がぶつかりそうな距離で働いている」
乗員がSNSを使い、自国政府に下船させてほしいと訴えると、一部には前向きな反応もあった。フィリピンのロクシン外相は「今すぐ彼らを帰国させたい」と語った。大半のフィリピン人乗員は下船を希望しているが、一部は隔離措置の完了まで船内に残る意向を示している。