最新記事

日本社会

新型コロナウイルス、初の死者で「信認低下」懸念 東京五輪中止の悪夢も

2020年2月14日(金)19時01分

日本で新型肺炎による初めての死者が発生し、政府内では五輪中止が最悪シナリオとして懸念され始めている。写真は東京・台場に設置された巨大な五輪マーク。1月17日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

日本で新型肺炎による初めての死者が発生し、政府内では五輪中止が最悪シナリオとして懸念され始めている。国内で感染が拡大し、それが日本の対応能力への不信につながり、五輪開催が危ぶまれるとの悪夢だ。国の信認問題に加えて、経済的打撃も計り知れないとの懸念が強まっている。

五輪開催への影響が最大の課題

「今は感染拡大を食い止め、オリンピックを実現させることが最大の課題だ」──アジア開発銀行研究所の吉野直行所長は、13日の段階でこう語り、新型肺炎による国内死者を1人も出さないことが五輪を成功させる必要条件だとの考えを強調していた。死者が出れば、日本への信認が低下して各国が五輪への選手派遣を中止し、中長期的にインバウンド需要への影響が出ることなどが考えられるためだ。

しかし、その日の夜には80代の患者が死亡。都内や和歌山県などでも新たな感染者が確認された。

与党内では「もし老人施設などで感染者が出れば、拡大は避けられそうにない。東京五輪が実現できるのか、現時点ではわからない。もし中止となれば施設整備も無駄になり、永田町でも政治責任を問う声さえ出てくるだろう」(ベテラン議員)との声も出ている。

民間エコノミストからも「現段階での最大のリスクは、日本での感染の広がりを理由に、国際オリンピック委員会が東京大会の開催を延期、ないしは開催地をロンドンなど他の都市に急きょ変更することだ。これらの場合、日本経済への悪影響は計り知れないものとなる」(BNPパリバ証券・チーフエコノミスト・河野龍太郎氏)と指摘している。

五輪開催期間中のインバウンド需要にとどまらず、入場券の販売や関連施設への投資回収、消費者マインド低下まで、あらゆる分野で予定していた需要が蒸発することになる。

短期収束がメインシナリオ

もっとも民間エコノミストの間では、今のところ短期収束を前提に今後の経済シナリオを描いている向きが多い。

外生的ショックである新型肺炎の影響は、ある程度の期間で収束することが分かっており、経済下押し圧力も一時的なものだ。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発生の際も、3月から5月にかけて感染者数が急増したが、間もなくピークアウトし7月には封じ込め宣言が出された。

日本においても、影響は1─3月に最も大きく表れ、春からは回復に向かうとの前提で景気見通しを立てている調査機関がほとんどだ。

10─12月期はマイナス成長に陥るものの、ロイター調査による予測中央値では1─3月期は年率プラス0.6%と、かろうじてプラス成長を確保。4─6月期には同1.4%成長まで回復するとの見通しだ。

伊藤忠商事チーフエコノミストの武田淳氏は、1─3月は中国経済が1%台まで減速すると試算しているが、その後は中国当局のてこ入れで回復するとみている。さらに日本経済も「ちょうど政府が年末に組んだ大型経済対策の効果も下支えし、4─6月から持ち直すだろう」との見方だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中