最新記事

地球温暖化

ヒマラヤの氷河がアイスクリームのように解け始めている

Nepal Gets Serious About Climate Change

2020年2月15日(土)15時40分
カマル・デブ・バッタラリ、スジャータ・カルキ(共に在カトマンズジャーナリスト)

エベレストを行く登山者の足元では氷河が急激な速さで解けている AP/AFLO

<今世紀中に氷河の3分の1が消滅すれば地域住民16億人の暮らしが破壊されかねない、ネパールが旗振り役を担う気候変動問題解決への道>

昨年2月に発表されたある報告書が、国際社会に静かな、しかし確実な衝撃を与えた。題して「ヒンズークシ・ヒマラヤ地域の評価──変化・持続可能性・住民」。この報告書は、世界の二酸化炭素排出量を削減するために今すぐ行動を起こさなければ、ヒマラヤ地域でとてつもない融解が起きると結論付けていた。

「今後、世界全体の平均気温の上昇幅を産業革命前から1.5度に保ったとしても、ヒンズークシ・ヒマラヤ地域の気温は少なくとも0.3度、ヒマラヤ北西部とカラコルムでは0.7度上昇する」と報告書にはある。「温暖化がさらに進めば、生物物理学的および社会経済的に非常に大きな影響を引き起こす可能性がある。生物の多様性が失われ、氷河の融解が進み、水資源の利用が困難になりかねない。いずれも地域住民の生活と福祉に打撃を与えるだろう」

気候変動がヒマラヤ山脈に及ぼす影響をテーマにした研究報告はいくつかあるが、いずれも警鐘を強く鳴らしている。科学的なレポートだけではない。山岳地帯を捉えた写真や動画は、以前なら白く冠雪していたはずのヒマラヤの頂に黒い岩肌が見えている様子を捉えている。

ネパール・タイムズ紙が昨年12月の第2週に撮影した1分間の動画は、急激な雪解けの様子をはっきり伝えていた。「ヒマラヤの山々がアイスクリームのように解けている」と、同紙は表現した。

ネパール政府も国際社会を巻き込む本格的な行動を取ろうとしている。今年4月2~4日には、気候変動がヒマラヤ山脈に及ぼす影響に世界の関心を喚起する目的で、気候変動問題に特化した初の国際サミット「エベレスト対話」を開催する。

サミットのテーマは「気候変動、山脈、そして人類の未来」。ネパール政府はこの場で、ヒマラヤ地域の経済も重要な議題として取り上げたい意向だ。ネパール外務省は、同国に影響を及ぼしている他のグローバルな問題にも対処するため、こうした国際会議を1~2年に1度の頻度で開催することを目指している。

昨年12月にスペインの首都マドリードで開かれた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)では、後発開発途上国(LDC)が先進国に対し、2015年のCOP21で採択された地球温暖化に関するパリ協定に従って気温の上昇幅を1.5度に制限するよう要請。LDCの1つであるネパールも、ヒマラヤへの気候変動の影響を抑制する必要性を呼び掛けた。

水資源の枯渇が農業を直撃

ネパールが国際的な場でヒマラヤ山脈の気候変動による危機を訴える機会は、着実に増えている。2018年12月にポーランド南部のカトウィツェで開かれたCOP24では、ビディヤ・デビ・バンダリ大統領がこう演説した。「ヒマラヤの氷河が解けている。雪を頂いていた山々の岩肌が見えてきた。氷河湖が決壊し、洪水を起こす可能性が高い」。こうした機会にネパールは、速やかな対策の必要性を世界に訴えてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中