最新記事

地球温暖化

ヒマラヤの氷河がアイスクリームのように解け始めている

Nepal Gets Serious About Climate Change

2020年2月15日(土)15時40分
カマル・デブ・バッタラリ、スジャータ・カルキ(共に在カトマンズジャーナリスト)

magw200214_climate2.jpg

世界の人々が集うエベレストには地球を覆う気候変動の問題が色濃く表れている AP/AFLO

ネパール森林・環境省で気候変動管理部のトップを務めるマヘシュワル・ダカルは「ネパールのヒマラヤ地域には、全く新しい知識が膨大に埋まっている」と語る。「4月に開催される『エベレスト対話』が、この地域の革新的な知識の発見につながれば、気候変動との闘いにも役立つはずだ」

さらにダカルはこう続けた。「ネパールは気候変動の悪影響のせいで、非常に脆弱な国になった。ヒンズークシ・ヒマラヤ地域のような山岳地帯は、世界の大半の地域よりも温暖化が急激に進んでいる。最近発表された報告書でも、この事実が裏付けられている。報告書によれば、世界の平均気温の上昇幅を産業革命以前に比べて1.5度以内に抑えられたとしても、今世紀中には氷河の3分の2が解けてしまう」

ヒマラヤ地域の気候変動は多様な影響をもたらすと、専門家たちは主張する。その影響に最も苦しめられるのは、脆弱な貧困国の国民だという見方も共有されている。

ネパールの首都カトマンズに本拠を置く先住民研究開発センターのパサン・ドルマ・シェルパ所長は、気候変動はヒマラヤ地域で暮らす人々を悲劇的な状況に追い込むと警鐘を鳴らす。「気候の変化があまりに大きいので、いくら対応しようとしてもし切れない」

さらにシェルパは「降雨パターンの変化が山地で農業を営む人々に影響を与えている」と指摘する。これまでと同じ農法では、収穫が落ちる一方だというのだ。「ネパールのヒマラヤ地域の人々の生活を支えているのは、農業と畜産業と観光業だ。その農業を、気候変動による水資源の枯渇が直撃している」

ネパール政府が感じる危機感

国際総合山岳開発センター(ICIMOD)の水資源・気候変動の専門家サントシュ・ネパールは「森林・環境省の報告書は、この国の平均気温は今世紀末までに1.7~3.6度上昇し、降雨量は11~23%増加すると推定している」と言う。「ICIMODの研究は、1980~2010年にネパールの氷河面積が25%消失した可能性を指摘する。氷河と雪解け水は、ヒマラヤを源流とする河川の水量の季節変動を調節する上で、非常に重要な役割を果たしている。ヒンズークシ・ヒマラヤ地域の氷河は今世紀中に少なくとも3分の1が失われると予想され、下流域では水資源確保に深刻な影響が出る恐れがある」

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「海洋・雪氷圏特別報告書」によると、温室効果ガス排出の大幅削減に今すぐ成功したとしても、今世紀中にはこの地域の氷河の約5分の1が失われるという。問題を放置した場合、氷河の融解は3分の1まで進むと考えられる。もろい生態系や、この地域に暮らす2億5000万の人々、そして下流域の16億5000万人の生活に深刻な被害をもたらすことは確実だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インドネシア中銀、2会合連続金利据え置き ルピア安

ワールド

政府・日銀、高い緊張感もち「市場注視」 丁寧な対話

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模な夜間攻撃、10人死亡・40人負
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中