新型コロナウイルスに漢方薬が有効? 中国全土である薬が完売した訳
SELLING SNAKE OIL
北京の首都医科大学で漢方薬を調合(2011年) David Gray – REUTERS
<怪しい情報に要注意。非科学的な伝統医学を主体とする中国医療は、ウイルス対策の妨げになりかねない。本誌「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>
中国全土で新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、国営の新華社通信は不安におののく国民に向けて、漢方薬が有効だという情報を流した。ウイルスに効果があるとされたのは双黄連口服液という薬で、すぐに全国の薬局で売り切れた。
新華社の情報に説得力があったのには理由がある。上海薬物研究所と武漢ウイルス研究所の研究が、中国の医療制度の主体である伝統中国医学に基づいて、この漢方薬にお墨付きを与えたとされたためだ。
これにはすぐに批判が噴出し、他の国営メディアにはこの薬に魔法のような効果はないと警告したところもある。だがウイルスとの闘いのなかで、伝統中国医学は複雑な意味合いを持っている。
今回のウイルス禍の震源地である武漢には、既に漢方の専門医125人が派遣された。愛国的なエセ科学とでも言うべきものを後押しする姿勢を示せば、中国政府は医療制度を損ない、ウイルス危機への対応を誤る恐れがある。
双黄連の原料はスイカズラ、レンギョウなどで、伝統医学と言っても処方ができたのは1960年代。下敷きになっているのは前近代的な中国医学と、漢方医が過去数世紀の間に蓄積した薬草研究を交ぜ合わせた非科学的な理論だ。双黄連が気道疾患に効く可能性を示す研究はいくつかあるが、大規模なウイルス感染に効果があるという確かな証拠はない。
伝統中国医療は大規模なビジネスになっている。いま処方されている漢方薬は薬草の専門家などが調合したものではなく、工場で大量生産された医薬品だ。中国の漢方薬市場の規模は年間450億ドル相当に達する。
公衆衛生上の危機の際に民間療法が流行するのは、どんな国でもあることだ。だが中国で伝統医療が果たす役割には、かなりの危険がある。西洋医学と一線を画す医療を構築するという考えが生まれたのは1950年代。中華人民共和国が成立して間もなく、毛沢東の号令によって大きく発展を遂げた。