新型コロナウイルスに漢方薬が有効? 中国全土である薬が完売した訳
SELLING SNAKE OIL
伝統医療は中国独自の医学として体系化され、技術的にはより高度な西洋医学に対抗するものとして医療に組み込まれた。中国の医療制度のかなりの部分は、少なくとも名目上は伝統医療に託されている。全病院の約1割が伝統医学を主体とし、ほぼ全ての病院で漢方関連の治療が行われている。
伝統中国医療には不透明な部分が多く、腐敗につながる恐れもある。武漢のある湖北省では、重体の妻の1日当たりの入院治療費として、伝統医療の病院から月収の何倍もの金額を請求された男性がいる。
伝統的な漢方薬には、臨床的に効果が証明された薬もたくさんある。ただし伝統医療の臨床基準には怪しげな部分が多く、データが偽造されたり、薬理効果のない薬が出回ることも珍しくない。
米学術誌に掲載された98年の研究論文によれば、中国で発表された伝統医療関連の論文のうち99%がこの医療に肯定的な結論を導き出している。常識的にあり得ない数字で、不正の可能性を感じさせる。
さらにイギリスの研究所の調査によれば、漢方薬の30〜35%には西洋医療の薬物が含まれており、安全と言えない量であることも少なくない。いま伝統中国医療は、ナショナリズムを強調する習近平(シー・チンピン)国家主席の下で再び活気を帯びている。習は公の場で伝統医療を「中国文化の宝」と繰り返し称賛している。
WHO(世界保健機関)などの国際的な専門機関に伝統医療を承認させる動きも活発で、資金も投入されている。病院で治療を受ける余裕がなく、隔離を恐れる中国人にとっては、漢方の家庭薬が唯一の選択肢なのかもしれない。しかしウイルスとの闘いでは、効果が疑わしい薬草と根拠の乏しい理論は妨げになるだけだ。
<2020年2月18日号「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>
2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。