最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスに漢方薬が有効? 中国全土である薬が完売した訳

SELLING SNAKE OIL

2020年2月12日(水)18時00分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

伝統医療は中国独自の医学として体系化され、技術的にはより高度な西洋医学に対抗するものとして医療に組み込まれた。中国の医療制度のかなりの部分は、少なくとも名目上は伝統医療に託されている。全病院の約1割が伝統医学を主体とし、ほぼ全ての病院で漢方関連の治療が行われている。

伝統中国医療には不透明な部分が多く、腐敗につながる恐れもある。武漢のある湖北省では、重体の妻の1日当たりの入院治療費として、伝統医療の病院から月収の何倍もの金額を請求された男性がいる。

伝統的な漢方薬には、臨床的に効果が証明された薬もたくさんある。ただし伝統医療の臨床基準には怪しげな部分が多く、データが偽造されたり、薬理効果のない薬が出回ることも珍しくない。

米学術誌に掲載された98年の研究論文によれば、中国で発表された伝統医療関連の論文のうち99%がこの医療に肯定的な結論を導き出している。常識的にあり得ない数字で、不正の可能性を感じさせる。

さらにイギリスの研究所の調査によれば、漢方薬の30〜35%には西洋医療の薬物が含まれており、安全と言えない量であることも少なくない。いま伝統中国医療は、ナショナリズムを強調する習近平(シー・チンピン)国家主席の下で再び活気を帯びている。習は公の場で伝統医療を「中国文化の宝」と繰り返し称賛している。

WHO(世界保健機関)などの国際的な専門機関に伝統医療を承認させる動きも活発で、資金も投入されている。病院で治療を受ける余裕がなく、隔離を恐れる中国人にとっては、漢方の家庭薬が唯一の選択肢なのかもしれない。しかしウイルスとの闘いでは、効果が疑わしい薬草と根拠の乏しい理論は妨げになるだけだ。

From Foreign Policy Magazine

<2020年2月18日号「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中