最新記事

極右

ドイツの民主主義はメルケル後までもたない?

Behold Germany’s Post-Merkel Future and Despair

2020年2月10日(月)19時43分
ピーター・クラス(ライター、在ベルリン)

だがほとんどの場合、左派党が主張するのは急進的な政策ではなく、社会福祉制度の充実や労働組合制度の刷新、1990~2000年代初頭にドイツを揺るがした民営化を巻き戻すことなど、19世紀にSPDが有権者の支持を得て勝ち取った社会保障制度を復活させることだ。

対するAfDの政治家はどうかと言えば、アフリカ人を「その場で」射殺することを提案し、今やドイツには外国人がたくさんいるから「ホロコーストが再び役に立つ」とほのめかし、ヨーロッパのユダヤ人を組織的に殺すことは、ドイツの輝かしい歴史の「クソのような一幕」だと語る。

ドイツ人が左派の過激主義に警戒するのにもいろいろな理由がある。特にチューリンゲン州では、旧東ドイツ秘密警察シュタージによる恐怖の記憶がまだ生々しい。他の左派の指導者と同様、ラメロウに全体主義的な傾向がないか、注意深く観察する必要はある。

だが、証拠もないのにAfDと左派党が何らかの意味で同等だと主張することは、それ自体が過激な考え方で、そんなものに固執するのは、古い政治的コンセンサスに必死にしがみつく人々だけだ。

このような立場は、チューリンゲン州の215万人の住民にとって、これまでうまくいってきた州の政治をわざわざ危険にさらすだけではなく、必然的にAfDを強化することになる。AfDは左派党をより過激に見せることで自分たちの主張を正当化することもできるようになる。

大きく変わるドイツ政界

さらに、極右はそこに生じるイメージのゆがみを利用して、中道の主流政党とメディアは、デマをバラまいていると主張することができる。チューリンゲン州でCDUが左派党と協力することにした場合、AfDは確実に、CDU幹部が最近、ラメロウを過激派よばわりしたことを指摘して、矛盾を非難するだろう。

ドイツの政界が近い将来、大きく変わることは間違いない。メルケルの最後の任期が2021年には終わるというのに、CDUは党の建て直しに苦しんでおり、国の方向性はまだわからない。中道派の指導者たちは近い将来、右と左のどちらに付くかをはっきりさせなくてはならない。

そんな今だからこそ、厳密で正確な情報発信が重要だ。CDUが安易にラメロウを過激派呼ばわりするたびに、すこしずつAfDを助けてきたことに気づかなければならない。

チューリンゲン州議会選挙でAfDが第2党となる得票を獲得したことが、ラメロウの勝利よりも重要だったと大々的に報じたドイツ内外のジャーナリストはすべて、反ファシスト連合の帆から風を抜き、過激な人種差別をあおるAfDの追い風となってしまっているのだ。

(翻訳:村井裕美、栗原紀子)

From Foreign Policy Magazine

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中