新型コロナウイルス 世界に広がる東洋人嫌悪
地域一帯でサポート カナダ
さらには、中国からの旅行者ではない、同じ国民である中国系住民に対する差別行為が起きている。本国に次ぐ中国系人口を抱えるカナダのチャイニーズコミュニティは、2003年のSARS大流行のときに大バッシングを受けた苦い思い出がある。多数ある中華街に人が寄り付かなくなるなど、彼らのビジネスが受けた損害は約800億円以上とも言われる。あまりのことに、当時のジャン・クレティエン首相が中華街を訪れ安全性をアピールするなど、異例の事態となった。
今回も早くも始まったヘイトスピーチに、コミュニティはまたあの悪夢が甦るのではないかと、戦々恐々としている。バスの中でアジア系男性たちに「あなた、あの中国病なの?」と問いかける白人女性が目撃されたり、中国系社員だけ自宅勤務を命じられたり、SNSで中華料理レストランのボイコットを呼びかけるポストが蔓延したりしている。
ただしカナダでは、悲劇を繰り返すまいとする中国系以外の団結も固い。東トロントで何十年も花屋を営む中国系夫妻が先週、客から人種差別的な発言を受けたエピソードがテレビで紹介されると、近隣の住民がこぞってこの花屋を訪れるようになった。また2日には、近所のFearless Burger(恐れを知らないバーガー)が、この花屋で買い物をしたレシートと引き換えに無料でバーガーを振る舞うという粋な計らいを見せた。
イギリスでふたたび活気づくゼノフォビア
イギリスでは大学院生が、バスや図書館で席についたとたん隣の人がさっさと荷物をまとめて立ち去ってしまうといったことが増えていると指摘している。フランスでは路上やSNS上での中国人に対する暴言が止まらず、#JeNeSuisPasUnVirus「私はウイルスではない」のハッシュタグが登場した。イタリアのサンタ・チェチーリア音楽院が日本人も含めた東洋人へのレッスン制限を公表したことは日本でも報道された。
ブレグジットの興奮覚めやらぬイギリスでは、ゼノフォビア(外国人嫌悪)が再び勢いづいている。だが、新型コロナウイルスは、ふだん彼らがひた隠しにしている差別感情を表出する口実になっているかのようだ。
「外国人嫌いの一部は、直近の伝染の恐れと相互作用している。中国に対するより広範な政治的および経済的緊張と不安とによって支持されている可能性が高い」と、ハワイ大学アジア研究科のクリスティ・ゴヴェラ助教授は指摘する。
インフルエンザの脅威を見過ごしがち
さらに、新型コロナウイルスに怯えるあまり、別の大きな脅威が見過ごされている。インフルエンザだ。ドイツについて言えば、2020年1月のみで約7000件、188種ものインフルエンザが確認されており、その数は増え続けている。エアランゲン大学病院の細菌学者アーミン・エンザーは、毎年5000〜10000人が亡くなるインフルエンザのほうが「現時点ではコロナウイルスよりも恐ろしい」と警告する。
ブラウン大学の人類学者キャサリン・A・マンソン教授はロスアンゼルス・タイムスにて、
「いま必要とされているのは、中国と国際社会の双方が冷静になることだ」
「コロナウイルスを(まるでこの世の終わりのように)扱うことは、益より害のほうが大きい」と、国際的な過剰反応はウイルスより危険だと警告する。