最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルス 世界に広がる東洋人嫌悪   

2020年2月4日(火)16時10分
モーゲンスタン陽子

地域一帯でサポート カナダ

さらには、中国からの旅行者ではない、同じ国民である中国系住民に対する差別行為が起きている。本国に次ぐ中国系人口を抱えるカナダのチャイニーズコミュニティは、2003年のSARS大流行のときに大バッシングを受けた苦い思い出がある。多数ある中華街に人が寄り付かなくなるなど、彼らのビジネスが受けた損害は約800億円以上とも言われる。あまりのことに、当時のジャン・クレティエン首相が中華街を訪れ安全性をアピールするなど、異例の事態となった。

今回も早くも始まったヘイトスピーチに、コミュニティはまたあの悪夢が甦るのではないかと、戦々恐々としている。バスの中でアジア系男性たちに「あなた、あの中国病なの?」と問いかける白人女性が目撃されたり、中国系社員だけ自宅勤務を命じられたり、SNSで中華料理レストランのボイコットを呼びかけるポストが蔓延したりしている。

ただしカナダでは、悲劇を繰り返すまいとする中国系以外の団結も固い。東トロントで何十年も花屋を営む中国系夫妻が先週、客から人種差別的な発言を受けたエピソードがテレビで紹介されると、近隣の住民がこぞってこの花屋を訪れるようになった。また2日には、近所のFearless Burger(恐れを知らないバーガー)が、この花屋で買い物をしたレシートと引き換えに無料でバーガーを振る舞うという粋な計らいを見せた。

イギリスでふたたび活気づくゼノフォビア

イギリスでは大学院生が、バスや図書館で席についたとたん隣の人がさっさと荷物をまとめて立ち去ってしまうといったことが増えていると指摘している。フランスでは路上やSNS上での中国人に対する暴言が止まらず、#JeNeSuisPasUnVirus「私はウイルスではない」のハッシュタグが登場した。イタリアのサンタ・チェチーリア音楽院が日本人も含めた東洋人へのレッスン制限を公表したことは日本でも報道された。

ブレグジットの興奮覚めやらぬイギリスでは、ゼノフォビア(外国人嫌悪)が再び勢いづいている。だが、新型コロナウイルスは、ふだん彼らがひた隠しにしている差別感情を表出する口実になっているかのようだ。

「外国人嫌いの一部は、直近の伝染の恐れと相互作用している。中国に対するより広範な政治的および経済的緊張と不安とによって支持されている可能性が高い」と、ハワイ大学アジア研究科のクリスティ・ゴヴェラ助教授は指摘する。

インフルエンザの脅威を見過ごしがち

さらに、新型コロナウイルスに怯えるあまり、別の大きな脅威が見過ごされている。インフルエンザだ。ドイツについて言えば、2020年1月のみで約7000件、188種ものインフルエンザが確認されており、その数は増え続けている。エアランゲン大学病院の細菌学者アーミン・エンザーは、毎年5000〜10000人が亡くなるインフルエンザのほうが「現時点ではコロナウイルスよりも恐ろしい」と警告する

ブラウン大学の人類学者キャサリン・A・マンソン教授はロスアンゼルス・タイムスにて、
「いま必要とされているのは、中国と国際社会の双方が冷静になることだ」
「コロナウイルスを(まるでこの世の終わりのように)扱うことは、益より害のほうが大きい」と、国際的な過剰反応はウイルスより危険だと警告する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中