ブレグジット後の不気味な未来、北アイルランドが血で染まる日
A Possible Return to Violence
EU離脱という「好機」到来
そこへ、イギリスのEU離脱という大きな政治的変化が来た。過激派が待ちに待った好機の到来だ。北アイルランド警察庁(PSNI)によると、準軍事的組織による襲撃事件の犠牲者は、2018年の51人から昨年は67人に増えたという。
中立的な「独立報告委員会」が昨年11月に出した報告書も、「09〜10年以降は準軍事組織による襲撃や爆弾テロは減少傾向にあったが、18 年10月1日から19年9月30日までの1年間では、準軍事組織の犠牲になった死者数と攻撃事例が増加していた」と指摘している。
イギリスのEU離脱をめぐる16年の国民投票で、北アイルランドは残留派が過半数を占めた。カトリック系住民の投票率が高かった証拠だが、これを受けて北アイルランドのカトリック系政党やアイルランド共和国政府は、アイルランド統一の是非を問う住民投票の実施を提唱するようになった。
一方で、離脱後にアイルランド共和国と北アイルランドの国境に物理的な「壁」ができれば、カトリック系過激派が猛反発し、暴力行為が再燃する恐れがあるとの観測もある。
最近の一連の暴力沙汰は、そうした不安に信憑性を与えている。昨年1月には北アイルランドのロンドンデリーにある裁判所の外で自動車爆弾テロがあったが、これは「新IRA」を名乗る集団(旧IRAの複数の分派集団が合流した武装組織)の犯行とされる。
同じ月には、新IRAがロンドンデリーのクレガン地区で15歳の少年を拉致して射殺する事件も発生。新IRAはさらに同年4月、市内で暴動を取材中の記者ライラ・マッキーを射殺。彼らは遺憾の意を表明したが、国内外で激しい非難を浴びた。
EU側もアイルランド共和国政府も、アイルランド島の北部に物理的な国境ができれば治安の維持に重大な懸念が生じると考え、イギリス政府との離脱交渉では物理的な国境復活の回避が最優先事項とされた。この点は、前首相のテリーザ・メイがEU側と合意した「バックストップ(安全策)」案でも、ボリス・ジョンソン首相がEU側と結んだ離脱協定でも変わっていない。