ブレグジット後の不気味な未来、北アイルランドが血で染まる日
A Possible Return to Violence
北アイルランドの人口逆転
ジョンソン政権の結んだ協定によれば、北アイルランドは制度上、イギリスの新たな関税同盟に含まれるが、運用面ではEUの現行規制の枠組みを踏襲することになっている。そのとおりになれば、カトリック系住民の不満は解消されるだろう。
しかし北アイルランドとイギリスの「連合」維持にこだわるプロテスタント系のユニオニストは、これをジョンソンの裏切りと捉えている。北アイルランドとイギリス本島の間を行き来する物品は海上で税関検査を受けなくてはならなくなり、北アイルランドと大ブリテン(イングランドとウェールズ、スコットランド)が明確に切り離されてしまうからだ。そうであれば、プロテスタント系の過激派が再び武力に訴える可能性が高まるだろう。
ユニオニストにとって、これは以前からゆっくりと始まっていた政治的・社会的な後退過程の一部だ。17年の北アイルランド議会選挙で、ユニオニスト諸派の4政党は議会の過半数を失い、英国議会でも10議席のうち2議席を失った。その結果、メイ前政権を閣外から支えた影響力もなくなった。
こうなると、最も得をするのはカトリック系の政治家だ。また、ある調査によれば北アイルランドではカトリック系の人口が増えており、遠からず多数派に転じる可能性がある。ユニオニストの側から見れば、これらの変化は自分たちの社会的地位の低下を意味する。
実際、今の北アイルランドではユニオニストの文化的シンボルや伝統を軽視する動きが表面化している。12年にはベルファスト市議会が、市庁舎での英国旗の常時掲揚を中止すると発表。このときはユニオニストによる抗議デモや暴動が各地で何カ月も続いた。
EU離脱を機に、「連合王国」における北アイルランドの地位を不動のものにしたいと考えていたユニオニストにとって、ジョンソンの協定は究極の裏切りだった。