最新記事

ブレグジット

ブレグジット後の不気味な未来、北アイルランドが血で染まる日

A Possible Return to Violence

2020年1月30日(木)18時30分
ジェーソン・ブラザキス(ミドルベリー国際問題研究所)、 コリン・クラーク(カーネギー・メロン大学)

mag20200204ireland2.jpg

EU旗の星を削り取る作業員の姿を描いたバンクシーの壁画 TOBY MELVILLEーREUTERS

北アイルランドの人口逆転

ジョンソン政権の結んだ協定によれば、北アイルランドは制度上、イギリスの新たな関税同盟に含まれるが、運用面ではEUの現行規制の枠組みを踏襲することになっている。そのとおりになれば、カトリック系住民の不満は解消されるだろう。

しかし北アイルランドとイギリスの「連合」維持にこだわるプロテスタント系のユニオニストは、これをジョンソンの裏切りと捉えている。北アイルランドとイギリス本島の間を行き来する物品は海上で税関検査を受けなくてはならなくなり、北アイルランドと大ブリテン(イングランドとウェールズ、スコットランド)が明確に切り離されてしまうからだ。そうであれば、プロテスタント系の過激派が再び武力に訴える可能性が高まるだろう。

ユニオニストにとって、これは以前からゆっくりと始まっていた政治的・社会的な後退過程の一部だ。17年の北アイルランド議会選挙で、ユニオニスト諸派の4政党は議会の過半数を失い、英国議会でも10議席のうち2議席を失った。その結果、メイ前政権を閣外から支えた影響力もなくなった。

こうなると、最も得をするのはカトリック系の政治家だ。また、ある調査によれば北アイルランドではカトリック系の人口が増えており、遠からず多数派に転じる可能性がある。ユニオニストの側から見れば、これらの変化は自分たちの社会的地位の低下を意味する。

実際、今の北アイルランドではユニオニストの文化的シンボルや伝統を軽視する動きが表面化している。12年にはベルファスト市議会が、市庁舎での英国旗の常時掲揚を中止すると発表。このときはユニオニストによる抗議デモや暴動が各地で何カ月も続いた。

EU離脱を機に、「連合王国」における北アイルランドの地位を不動のものにしたいと考えていたユニオニストにとって、ジョンソンの協定は究極の裏切りだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中