米イラン危機で世界経済が景気後退に突入する?
THE COST OF WHAT COMES NEXT
戦争にはならないとしても
アメリカが先制攻撃を決断する可能性もある。イランの体制変革を主張する声はトランプ政権内に強く残る。「(ソレイマニ殺害を)突発的で場当たり的と見なすのは間違いだろう。これは米政権内のタカ派が長らく主張していた行動だ」と、ブックは指摘する。
トゥーシも同意見だ。「最終的には戦争に発展し、アメリカにとってベトナム以来、最も高くつく戦いになるのではないか」
とはいえ市場がみるところ、その現実味は薄い。イランもアメリカも強硬発言を続けているものの、実際には当事者全員が危機からの出口を探っているようだ。
イランのミサイル攻撃は人的被害を出さないよう計算されていたらしい。トランプは攻撃後の声明で、被害は「最小限」で、「イランは臨戦態勢を解こうとしているようだ。全ての関係者にとってよいことであり、世界にとって大変よいことだ」と発言。抑制的な姿勢だと受け止められた。
衝突の沈静化に向けて、イスラエルやサウジアラビアが舞台裏で動いている気配もある。「サウジアラビアは自国の石油施設にイランのミサイルが降り注ぐ事態を望んでいない。今では両国はアメリカを説得して、段階的な緊張緩和を実現しようとしている」と、トゥーシは言う。
だが限定的な戦闘というシナリオであれ、不確実性が高まれば、ほころびが見え始めている世界経済は景気後退に見舞われかねない。スタンフォード大学のブルームはこう語る。「トランプは予測不可能で、イランもイラク政府もそう。これは実に有害なコンビネーションだ」
<2020年1月28日号「CIAが読み解くイラン危機」特集より>
2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。