最新記事

CIAが読み解くイラン危機

米イラン危機で世界経済が景気後退に突入する?

THE COST OF WHAT COMES NEXT

2020年1月21日(火)16時20分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

原油価格急騰が意味するもの

ワシントンのシンクタンク、ニューアメリカ財団のストラテジストのピーター・シンガーはサイバー攻撃の増加を予想する。

「イランはサイバー攻撃能力の構築に多くの資源を投じた。これまでに行ってきた一連のサイバー攻撃はその能力を見せつけることが目的だった......。こうした攻撃が再開され、ソフトターゲットである地方自治体の水道システムなどが標的になるのではないか」

米ライス大学ベーカー公共政策研究所のエネルギー・グローバル原油担当フェロー、マーク・フィンリーは「原油タンカーや精製施設、パイプラインが攻撃されても驚かない」と言う。トゥーシによれば、イランの代理勢力であるレバノンのイスラム教過激派組織ヒズボラなどが爆弾攻撃や暗殺を行う可能性もある。

こうした出来事はどれも原油市場の混乱の原因になり得る。旅行業界や製造業、農業部門は原油価格の動向に大きく左右される。それでもグローバル経済への影響は、1970年代のオイルショック並みの規模にはならないだろう。

原油価格が経済に与える影響の度合いは低下する一方だ。シェール革命のおかげでアメリカのエネルギー自給率は100%に迫っている。とはいえ原油は国際的に取引され、アメリカは主要な輸出国かつ輸入国だ。つまり、影響は偏在的かつ局地的なものになるだろう。

米国内の多くの地域、特により所得が低い地方部が打撃を被る一方で、原油産出州のテキサスやアラスカは好景気に沸くことになるかもしれない。

原油価格が上昇しても、長続きする見込みは薄い。「地政学的理由による原油急騰はそれほど長期的なものにならない傾向がある。短期的出来事に対処するためのブレーキ装置が制度内に多く組み込まれている」と語るのは、エネルギーリスク分析を手掛ける米調査会社クリアビュー・エネルギーパートナーズの経営幹部ケビン・ブックだ。

だが米イランが全面衝突した場合、原油供給体制の混乱はより長引き、原油価格が1バレル=100ドルに達する恐れもある。そうなれば「1世代にわたって続く世界経済の減速と甚大な影響」がもたらされるだろうと、ニューアメリカ財団のシンガーは言う。

イラン、またはイラクがさらなる攻撃に踏み切り、エスカレーションの悪循環が起きたら、こうした事態は避けられないかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中