最新記事

台湾総統選

日本も見習え──台湾はいかにポピュリズムを撃退したか

Taiwan’s Voters Show How to Beat Populism

2020年1月14日(火)19時15分
レブ・ナックマン

敗北を認めた親中派の韓國瑜(1月11日)REUTERS/Ann Wang

<アメリカもイギリスも抵抗できずにいるポピュリズムを、東アジアの一国、台湾が打ち負かした。秘訣は何か>

世界の政治学者が「民主主義への支持が世界的に落ち込みつつある」という気掛かりな仮説の検証を始めたのが2016年のこと。あれから4年。アメリカではドナルド・トランプ大統領が支持を受け、イギリスではEU離脱が決まってボリス・ジョンソンが首相に選出された。インドとハンガリーでは、権威主義のポピュリストが政権を握っている。そんなかでもポピュリズムに抵抗してきたのが、台湾だ。

2018年11月には、与党・民主進歩党(民進党)の牙城だった高雄市の市長選で、親中派の最大野党・国民党の韓國瑜が圧勝。彼はその後も多くの支持を集め続け、台湾で最も支持される親中派の政治家となった。そして市長選からわずか8カ月後には、台湾総統選に向けた国民党の予備選で勝利。現職の蔡英文総統の対立候補として党の公認を受けた。

猫好き代表として動物保護イベントに参加した蔡英文


政治科学者のネイサン・バットは、韓の戦略は「一般市民を代表する自分を選ぶか、民進党の腐敗したエリートを選ぶか」という道徳的な二者択一を迫ることだという。もし民進党が選ばれれば、台湾の活力はすべて吸い取られてしまうぞ、と。高雄市長選の時は「裕福になろう」というシンプルな選挙スローガンを掲げ、腐敗した民進党の下ではそれは実現できないと主張した。だがその一方でフィリピン人労働者を蔑視するような発言をして、他のポピュリスト政治家たちと同様に人種差別的な論調を支持集めに利用したり、女性差別発言で物議を醸す一面もあった。

「イデオロギーの勝利」ではない

国民党の多くの政治家と同様、韓もまた揺るぎない親中派だ。「一つの中国」原則を確認する「1992年コンセンサス(合意)」や、中国共産党とのより緊密な関係を支持している。2019年3月には香港、マカオと深センを訪問。韓は「高雄市の果物を売り込みに行った」だけだと主張したが、台湾市民は彼が一連の訪問の中で中国共産党の当局者と非公開の会談を行ったことに激怒した。

2019年5月の時点で韓の支持率は50%に達していた。一方の民進党は統一地方選(2018年11月)で大敗し、総統選に向け党内で候補者が乱立したことの影響から、蔡の支持率は35%を下回っていた。

だが総統選の1カ月前には、蔡の支持率が51%、韓の支持率が29%と2人の立場は逆転した。そして1月11日に投開票された総統選では、蔡は韓に260万票以上の差をつけて圧勝した。アメリカやイギリスがポピュリストの波に呑まれた一方で、台湾はどうやってそれに打ち克ったのだろうか?

その「秘密」は投票率だ。蔡の勝利は必ずしもイデオロギーの勝利ではないのである。

<参考記事>台湾総統選「窮地に立つ習近平」に「温かな手」を差し伸べる安倍首相
<参考記事>日本は台湾からの難民を受け入れる準備ができているか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中