最新記事

トランプ

イラン軍司令官を殺しておいて本当の理由を説明しようとしないトランプは反アメリカ的

The Trump Administration Is Barely Trying to Explain the Iran Strike

2020年1月7日(火)20時45分
ジョシュア・キーティング

トランプの嘘はイラクに大量破壊兵器があると言ったブッシュの嘘よりひどい? Tom Brenner-REUTERS

<ほとんど衝動的に外国の軍司令官を殺害し、差し迫った攻撃を阻止するための自衛策という当初の説明が、翌日にはやられたからやり返したという説明にすり替わる軽さは、敵に塩を送るだけだ>

米軍は1月3日、イラン革命防衛隊の精鋭「クッズ部隊」のカセニ・スレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害した。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)とAP通信の週末の報道によればこの攻撃は、2019年末にイランの指示とみられるイラク駐留米軍への攻撃が増加したことを受けて、政府高官がドナルド・トランプ大統領に提示した「複数の対応策」のひとつだった。

NYTによれば、「国防総省関係者はこういう場合、まず絶対に選ばれない端な提案も選択肢に入れて、自分たちが推す対応策が選ばれやすいようにすることがある」。スレイマニ殺害案もそうしたあり得ない策のひとつだったが、トランプはそれを選んだ。国防総省は驚いたという。

だがトランプはこの3年間、アメリカの従来の軍事・外交政策を何度も(気まぐれで)覆してきた。国防総省はなぜ、トランプが最も極端な策を選ぶことを予想できなかったのだろうか。イランと和解して中東における終わりのない戦争を回避したいと言っていたトランプのウソを真に受けたのだろうか。今回の事態は、諸外国の指導者の言動を分析することも職務の一部である国防総省の担当者が、自国の指導者のことさえ理解できていないことを示唆している。

スレイマニを殺害したことについての説明も、トランプ政権の当初の説明はウソだったようだ。トランプは、この攻撃は、スレイマニ率いる特殊部隊の攻撃を阻止するために必要な「自衛策」だったと説明した。トランプが3日に出した声明はこうだ。「スレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に対して、差し迫った邪悪な攻撃を画策していたが、我々はその証拠を掴み、必要な行動をとった」

在イラク米大使館の攻撃に「激怒」

だがその後の報道によれば、差し迫った攻撃など存在しなかった。スレイマニ殺害は最初、「自衛」策としてではなく、一週間前の12月27日にイラクの米軍基地に対する攻撃でアメリカ人の請負業者1人が殺されことへの「報復」として提案された。この時トランプが選んだのは、イランが支援するイスラム教シーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」の拠点をドローン攻撃するというより「穏やかな」選択肢だった。

NYTによれば、トランプがその後スレイマニ殺害という「極端な」策を選んだのは、12月31日に在イラク米大使館がイランの支援を受けた武装組織によって攻撃されたのをテレビで見て「激怒」したからだという。バラク・オバマ前政権時代にリビア東部のベンガジで起きた米領事館襲撃事件を彷彿とさせる映像が、アメリカを弱く見せ、大統領選にも響くのではないかと恐れたのだ。

<参考記事>軍事力は世界14位、報復を誓うイラン軍の本当の実力
<参考記事>トランプが52カ所攻撃するなら、イランは300カ所攻撃する

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中