インドネシア、GPS装着でゾウの行動追跡 絶滅の危機にあるスマトラゾウ保護策
進まぬ政府の保護対策
2019年11月18日には同じリアウ州ベンカリス県にあるプランテーション内の森でスマトラゾウのオス1頭の腐乱死骸が発見された。死骸は頭部と鼻が切断され象牙が切り取られて持ち去られていたため、象牙の密猟者による犯行とされた(「頭と鼻を切られた牙なしスマトラゾウ 絶滅危惧種の密猟に警察も関与?」)
さらに同年10月15日には同じくリアウ州のシアク県スンガイ・マンダウ地方でナイロン製のロープによる罠(わな)にかかって身動きできない状態の1歳のオスのスマトラゾウが発見され、自然保護局関係者によって救出され同州内にあるゾウのリハビリセンターに収容、保護される事案も起きている。
同じスマトラ島の北端にあるアチェ州東アチェ県でも2019年11月21日にアブラヤシのプランテーションでスマトラゾウの死骸が発見されている。死骸の調査に当たったアチェの自然保護局獣医は推定25歳のメスで毒殺された可能性もあるとの見方を示した。
プランテーションの中で死骸が発見されたことから、密猟者あるいはプランテーション労働者が毒を仕掛けて「駆除」した可能性もあると獣医は指摘した。
このようにスマトラゾウの密猟、そしてゾウの生息環境破壊もスマトラゾウの個体数減少の背景にはあり、森林開発や焼き畑農業などによる熱帯雨林消失への対応策がスマトラゾウの保護と同時に重要な政策となっている。
しかしヤシ油などのプランテーション開墾や道路、水力発電所建設などのインフラ整備のために行われている熱帯雨林の開発、焼き畑農業は政府の度重なる禁止令や取り締まりにも関わらず相変わらず続いているのがインドネシアの現状だ。
こうした森林火災の煙が近隣のシンガポールやマレーシアの大気汚染を引き起こす「煙害」はもはや"年中行事"となっている。
熱帯雨林の消失がスマトラゾウなどの生息域を狭め、エサが不足することにより人家や農地に接近せざるをえないという事情を考えると、ジョコ・ウィドド政権による希少動物保護と熱帯雨林保護の両方が急務の課題となっているのは明らかだ。それも手遅れにならない前に。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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