インドネシア、EEZ内の違法漁船めぐり中国海警と緊迫 強硬姿勢の裏に国内政治対策も
中国への配慮も見せながらの外交戦術
インドネシア政府はナツナ諸島周辺海域でのこうした対中強硬姿勢の一方で、「同海域をめぐる問題が中国との外交関係悪化につながることは避けたい」(インドネシア外交筋)として同海域の問題と中国による経済援助をはじめとする外交関係がリンクしないよう最大限の配慮を示している。
ジョコ・ウィドド政権はジャカルタ近郊の高速鉄道建設やスマトラ島北部の水力発電所建設計画などをはじめとして、政権の主要課題であるインフラ整備で日本と同様に中国の投資、支援を必要不可欠と考えており、こうした経済的側面にEEZ問題の影響が及ぶことを強く懸念しているのだ。
中国が進める「一帯一路」構想には完全に与することなく、海洋権益でも妥協することを避け、その一方でインフラ整備や経済支援ではこれまで通りの良好な関係を中国とは維持していきたい、というのがジョコ・ウィドド大統領の思いである。
ナツナ諸島周辺のインドネシアEEZから中国漁船団が今回退去したことで、とりあえず中国がインドネシア政府の方針を再確認して譲歩した形となったが、今後中国側がどう対応してくるかが注目点となる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。