インドネシア、EEZ内の違法漁船めぐり中国海警と緊迫 強硬姿勢の裏に国内政治対策も
「中国主張の九段線を認めない」と改めて表明
一方でジョコ・ウィドド大統領は1月6日に「ナツナ海域での主権については交渉の余地は存在しない」と発言し、中国に強い姿勢を改めて示した。ルトノ・マルスディ外相も「インドネシアは(中国が主張する)九段線を認めない。中国は国連海洋法条約を遵守する義務がある」と述べて、中国の一方的な九段線が国際的に容認できるものではないとの立場を重ねて強調した。
ナツナ諸島周辺の海域をインドネシアは2017年に「北ナツナ海」と独自に命名。自国の権益が及ぶ海域として内外にアピールするとともに軍施設を整備、兵力を増強させるなどして周辺海域の警備に力を入れていた。
インドネシア側のこうした重ねての強い姿勢にEEZ内での操業、航行を続けていた中国漁船と海警局の艦艇が最終的にEEZ外に出たことを13日、同海域を担当する統合部隊司令官のユド・マルゴノ海軍少将が明らかにした。12日の時点ではまだEEZ内の留まっていた中国漁船などが一斉にEEZ外に退去したのは、中国政府など上部機関からの指示があったものとみられている。
マルゴノ少将は「中国漁船などはEEZ外に退去したものの、海軍と空軍によるこの海域での警戒監視のパトロールは今後も続ける。タイムリミットはなく年間を通じて警戒は続けられることになる」と今後も同海域でのインドネシア権益の保護に全力を挙げる方針を示した。
見え隠れするプラボウォ国防相の野望
今回のインドネシア側の海軍、空軍を増強してまでとった対中国の強い姿勢には10月に新任されたプラボウォ・スビアント国防相の思惑も反映しているといわれている。
1998年に民主化のうねりとアジア通貨危機の影響などから崩壊した長期独裁政権のスハルト大統領。その大統領の女婿として陸軍内で出世街道を順調に上りつつあったプラボウォ氏は、政権崩壊の混乱の中で軍を追われ、国外に長く滞在するなど不遇を囲っていた。
しかし、民主化の流れの中で帰国して自らの政党を結成し党首になり政界復帰を果たした。
さらに2009年の大統領選に副大統領候補として出馬するも敗北し、2014年、2019年の大統領選には大統領候補として連続立候補、惜敗するもイスラム保守派の支持を背景にその存在感を拡大した。
大統領選の対抗馬だったジョコ・ウィドド大統領は2019年10月、2期目の政権にプラボウォ氏を国防相として迎えたことでプラボウォ氏は政治の表舞台に文字通り躍り出た。
かつて出世街道を追われた国軍を率いる国防相として軍の存在感拡大と軍備増強に専心するプラウォ国防相の思惑と領土保全という国民が等しく支持する政治課題を前面に出して国民の結束を促したいジョコ・ウィドド大統領の狙いが一致したのがナツナ諸島周辺のEEZ権益保護といえる。