中国組織が暗躍、麻薬密輸は瀬取り化 フィリピン「超法規的」取締を継続へ
海上で引き渡す「瀬取り」が増加
PDEAのアキノ長官によると、ドゥテルテ大統領が強力に麻薬対策を進めているために、これまでの麻薬密輸のルートや方法が姿を消し、最近は大型船舶に積み込んだ麻薬を防水パッケージに梱包してフィリピン東海岸沖で海中に投下。これを小型船舶が回収してフィリピン国内に持ち込む、一種の「瀬取り」方式が大半を占めていると分析している。
この方式での密輸には海上を浮遊する麻薬のパッケージをダイバーが泳いで回収、小型船舶に揚げて運ぶのだが、PDEAはこうしたダイバーもすでに数人身柄を確保して背後の組織に関する捜査を続けている。
ダイバーの大半は沿岸地域の元漁民で「(摘発時は)漁業者を装うが麻薬回収の専門ダイバーとして組織の末端で密輸を手伝っている」とみている。
海洋当局などによるとフィリピン東海岸は島が多く、小型船舶による漁業も盛んなために摘発は困難だが、潮流の関係で回収が不能になり海上を漂流しているパッケージも多く、それを押収する事例も頻発しているという。
PDEA関係者によると最近は漂流を回避するためにパッケージに位置情報を発信するGPSや自動追跡装置を装着していることも多く、密輸も巧妙化しているという。
米中、メキシコ、コロンビアとも協力
ドゥテルテ大統領が推進する麻薬犯罪対策の超法規的措置では2016年6月の大統領就任以来、これまでに約6000人が犠牲となっていると警察などはしているが、人権団体や犠牲者の家族などの情報を総合すると死者は約1万人ともいわれている。
2018年には麻薬犯罪の容疑者と間違われて17歳の少年が警察官たちに射殺されるなど、麻薬犯罪容疑者以外の犠牲者がでるケースも報告されている。
とはいえ、現在も国民の約80%からの支持を得ているドゥテルテ大統領はその支持をテコに強力な麻薬犯罪対策を今後も継続することを表明しており、特に麻薬犯罪に関与している政治家の取り締まりを徹底するとしている。
そうしたドゥテルテ大統領の姿勢を受けてPDEAは、フィリピンを経由して麻薬が流れているとされる米国、フィリピンの麻薬犯罪組織と密接な関係がをもつ犯罪組織が本拠地とする中国、さらに麻薬犯罪が多いメキシコやコロンビアの関係当局と情報交換や捜査協力を強化していく方針を明らかにしている。
アキノPDEA長官はフィリピン全土にある17,000の市町村から麻薬を一掃する「麻薬フリー化作戦」を続ける方針を掲げている。これまでにリストアップされた麻薬犯罪容疑者12,000人のうち8,700人を逮捕。残る容疑者の逮捕・摘発にも全力を挙げ、ドゥテルテ大統領の任期が終わる2022年までにフィリピンから麻薬犯罪を根絶することを目標とすると強調している。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など