最新記事

事件

「英雄」中村哲医師、誰になぜ襲われた? 水利権トラブルに巻き込まれた可能性も

2019年12月12日(木)11時00分
浅野 貴志(ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

アフガニスタンでは、緑化事業などに取り組んでいた中村哲医師の死に悲しみが広がった。 Omar Sobhani - REUTERS

アフガニスタンで、緑化事業などに取り組んでいた中村哲医師が殺害された。医療施設拡充や灌漑事業に尽力した「地域の英雄」(アフガンのガニ大統領)が犠牲となった痛ましい事件だ。

9日までに2人が逮捕され、武装グループによる計画的事件ということは判明しているが、「犯人は誰で、なぜ犯行に至ったのか」という点は謎のままだ。当初はイスラム過激派によるテロの可能性が取り沙汰されたが、犯行声明もいまだ出ていない。浮上しているのが現地での「水利権」が悲劇を生んだとの見方だ。

強い殺意がうかがえる犯行

事件が起きたのは4日、パキスタンとの国境に近い東部ナンガルハル州の州都ジャララバードだ。

複数の現地報道を総合すると、中村医師は現地時間4日午前8時ごろ宿舎を出発し、25キロほど離れた用水施設の工事現場に向かっていた。武装グループは自動小銃AK47(カラシニコフ)や拳銃で武装し、2台の車に分乗し、中村医師の車を追走。行く手を遮った後、一斉に銃撃を加えた。まず、ボディーガード4人を殺害し、その後、運転手と助手席の中村医師に発砲したもようだ。

負傷した中村医師が起き上がったところに、武装グループはとどめを刺すように銃弾を浴びせかけ、現場から逃走した。中村医師の日々の通行ルートを把握していた計画性と、確実に命を奪おうとしたことから強い殺意がうかがえる。

犯人像は絞り込めていないが、地元かその近郊出身者であることは確実視されている。武装グループはアフガンからパキスタンにかけて見られる民族衣装「シャルワール・カミーズ」を着ており、地元での主要言語の1つであるパシュトー語で会話していた。ナンガルハル州政府は全員が男で総勢5~7人程度との見方を示している。

アメリカの同時多発テロを受けた2001年の米英軍のアフガン侵攻以来、アフガンの治安情勢が泥沼化しているのは周知の事実だ。テロや戦闘などによる民間人の死傷者は、2014年から5年連続で1万人を超えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税受けベトナムに生産移転も、中

ビジネス

アングル:西側企業のロシア市場復帰進まず 厳しい障

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中