最新記事

日本政治

「桜を見る会」問題、ホテル前夜祭「値引き」疑惑の深層

A Cherry Blossom Storm

2019年12月13日(金)16時10分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

問題はタイミングだ。前夜祭(4月12日)の詳細が決定された後に、首相主催晩餐会(10月23日)の場所が決まっていた場合、「前夜祭で値引きをしてくれることになったから、お礼に晩餐会をニューオータニにしてあげよう」としたとも考えられなくもない。しかし、政治家個人の政務と内閣総理大臣としての公務とでは重みが全く違う以上、通常は想定し難い。

むしろ問題となるのは、その逆の場合だ。つまり、ニューオータニが随意契約で晩餐会受注に成功した後に、前夜祭の詳細を決めていた場合である。この場合、2つの催事が全くの無関係であり、同じホテルになったのは偶然であることを積極的に説明しない限り、ホテル側が一方的に「忖度」して値引きを供与したのか、あるいは当事者間の黙示または明示の合意があったのかという、あらぬ疑いを払拭し難いことになる。

仮に「桜を見る会」前夜祭において利益供与があったとすれば、その趣旨と実態はどのようなものだったのか。また、2つのイベントの場所がどのような経緯でニューオータニに決定したのか、そして晩餐会の場所選定に関する職務権限が誰にあるのか──政権側は自ら説明しなければならないだろう。

そうしなければ、今回の疑惑が、単なる裁量行使の適切性の問題ではなく、あるいは公選法や政治資金規正法違反の案件にとどまるものではなく、刑法上の贈収賄の疑いがあるレベルの話だという「疑念」を簡単には払拭できない。

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(古今和歌集・在原業平)(世の中に桜というものがまったくなかったら、どんなに春の心はのどかだろうか)

東京は今、静かな厳冬に包まれている。「桜を見る会」疑惑が史上最長となった安倍政権の終わりの始まりとなるのか、それとも適切に説明責任を果たして、憲法改正という大目標あるいは東京オリンピック・パラリンピックに向けて強力な政権運営を続けていけることになるのか。人心一新の解散総選挙という手もあれば、より洗練された危機管理によって事態を沈静化させる手もまだある。

桜を散らせるか咲かせるかは、この冬次第だろう。

<本誌2019年12月17日号掲載>

【参考記事】野党の「桜を見る会」追及にはなぜ迫力がないのか
【参考記事】「桜を見る会」よりもポスト安倍の世界に目を向けよ

20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中