アジア版自由貿易協定「RCEP」の長所と短所
Asia Bets on Free Trade
RCEP妥結の障害は?
ずばりインドだ。インドは、工業・農業部門が激しい競争にさらされるのを嫌っていた。対中貿易で巨額の赤字を抱えているため、RCEPの参加で安価な中国製品が流入することも恐れている。
インドは過去に締結した自由貿易協定の恩恵をあまり受けておらず、これも大規模な協定への参加意欲が弱い理由だ。鉄鋼やアルミニウム、繊維や農業をはじめとする各部門はいずれも、RCEPに参加すれば多くの失業者が出かねないと反発してきた。
5月の総選挙で下院の過半数を獲得して再選を果たしたナレンドラ・モディ首相は右派だが、だからといって自由貿易を支持しているわけでは決してないと、米外交問題評議会のアリッサ・エアーズは言う。「インドの一部極右勢力は、中国製品が大量流入することになるから、今以上に開かれた貿易は容認できないと言っている」
だが経済成長と雇用創出を公約に掲げたモディの再選は、より開かれたインドの実現につながるのでは?
そこが大きな問題だ。モディは経済成長と製造部門の競争力強化を公約に掲げて首相に選出された。
これはインドがRCEP参加による長期的な利益と引き換えに、一定の短期的な痛みを受け入れる準備があることを意味する。RCEPに参加すれば新たな市場に優先的にアクセスできるし、長い目で見れば国内企業の競争力を強化することができるからだ。
しかしモディの経済政策は自由貿易を促進するどころか、むしろその逆で、国産化推進の名の下に幅広い物品の関税を引き上げている。「貿易の開放という点において、インドは後退しつつある」と、エアーズは言う。
そのために4日の会合では、インドがどう出るかが注目されていた。
輸入品の流入よりも、アジア圏の大規模自由貿易の傍観者となることで生じる損失のほうが大きいと判断するのか(いくつかの調査によればインドはRCEPに参加するよりも不参加のほうが失うものが多い)。それとも医療や衛生面など国内の改革を推し進めるほうが、貿易を開放するより利益が大きいと判断するのか。
結局モディは4日、RCEPの諸条件はインドの懸念に対処するものではないとして、交渉撤退を表明。RCEPは差し当たって、その他の15カ国で交渉を進めることになった。ただし今後の条件次第では、インドが改めて交渉に復帰する可能性もある。