最新記事

自由貿易

アジア版自由貿易協定「RCEP」の長所と短所

Asia Bets on Free Trade

2019年11月13日(水)16時50分
キース・ジョンソン

RCEPの交渉妥結に向けてバンコクに集まった各国首脳(11月4日) LIU ZEHN-CHINA NEWS SERVICE-VCG/GETTY IMAGES

<アジア太平洋に巨大経済圏の構築を目指す多国間連携構想は地域をアメリカから切り離し中国寄りにする>

11月初めに開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)関連の首脳会議で注目を集めたのは、アメリカが去年よりも格下の代表団を派遣したことだった。アジアの同盟諸国は、アメリカがアジア軽視に転じたのではと懸念を深めた。

だが、その裏でさらに注目を集めていた点がある。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)妥結の可能性だ。野心的な貿易協定であるRCEPとは何なのか。

そもそもRCEPとは?

成立すれば世界最大規模の自由貿易協定となり、世界の人口の半分とGDPの約3分の1をカバーする。2012年後半以降、ASEAN加盟10カ国に中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとインドを加えた16カ国で交渉を続けてきた。

トランプ米政権がもう1つのアジア圏貿易協定であるTPP(環太平洋経済連携協定)を離脱し、あからさまな保護主義に傾いていることを受けて、停滞していた交渉が動きだし、最終段階に突入。11月4日の首脳会合で16カ国が交渉の妥結を発表するとみられていた。

だが、ここにきてインドが交渉から撤退する考えを明らかにしたため、妥結は来年に持ち越された。

TPPとの違いは何?

オバマ前米政権は、北米3カ国とアジア太平洋9カ国による自由貿易協定構想のTPPを支持していた。成立していれば、世界のGDPの40%近くをカバーする世界最大の貿易協定になっていた。

TPPは数千品目の関税引き下げに加え、労働・環境保護の高い基準を設定。知的財産権や為替操作などについての新たなルールも掲げた。

だがドナルド・トランプ米大統領が就任直後にアメリカの離脱を表明したことで、TPPは頓挫。残る11カ国によるTPP協定(CPTPP)が2018年末に発効した。

当然ながら、アメリカの離脱によって経済的メリットは縮小した。ピーターソン国際経済研究所(ワシントン)によれば、CPTPPが2030年に世界にもたらす年間の実質所得は推定1470億ドルと、TPPの推定4920億ドルから大幅に減少した。

RCEPには、TPPよりも野心的なところもあれば、そうではないところもある。

両者の最大の違いは参加国だ。TPPはあえて中国を除外し、アメリカをはじめ各国が中国の経済支配に対抗する道をつくった。一方のRCEPは中国も含み、アジア中心の貿易協定の色合いが濃い。

TPPに比べて野心的ではない点は、TPPのような厳しい労働・環境基準を設けていないところだ。カバー範囲は広いがTPPよりも内容が薄いため、押し上げる実質所得の見通しも年間約2860億ドルと、CPTPPより多いがTPPよりは少ない。

オーストラリアやニュージーランドなど多くの参加予定国は当初、規定が緩いRCEPにあまり乗り気ではなかった。だが貿易交渉に関税を利用するトランプのやり方や米中貿易戦争が世界経済を冷え込ませ、世界の貿易秩序そのものが疑問視されるようになったことを受けて、交渉妥結に前向きな姿勢に転じた。

magw191112_RCEP2.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中